子どもたちに本音を聞いてみた
「夫がそう言うということは、子どもたちにもいろいろ思いはあるんだろうと聞いてみたんです。18歳の娘は『髪の色なんて、本人の好きにすればいいだけ』とあっさり言った。彼女は高校を出たら金髪にするのを楽しみにしているみたい。ところが16歳の息子に聞くと、『いいんだけどさ、この前、友だちにおまえの母さん、おばあさんみたいって言われた』と小声で……。娘が『子どもだねえ。白髪だったら年とってると思い込んでる。肌を見てごらんなさいよ、お母さん、ツヤがあって若々しいよ』とかばってくれました。
でもそこへ夫が『お父さんもお母さんが染めてるほうがいいと思うけど、それは最終的にはお母さんの決断だな。お父さんやおまえの意見をお母さんがどう思うか』と言い出したんです。『それって脅迫みたい』と娘が言い放ってリビングを出ていきました。私もそう思ったから、娘には感謝しています」
グレイヘアは市民権を得ていないのか
どうしてそういう言い方をするかなと夫に詰め寄ったサオリさんだが、その後、夫や息子の言葉を思い返して考え込んでしまったそうだ。「グレイヘアはいまだに市民権を得ていないのか、白髪が多いと本当に年老いて見えるのか、グレイヘアを伸ばしっぱなしにしているわけではなくたまに色を入れたり髪の艶を保つよう努力しているのに、それでも“おしゃれをしない人”に見えてしまうのか……。
髪は女の命と昔から言われてきたけど、いまだにみんなそう思っているのか、等々。考えても答えは出ないんですけどね」
それでもやはり、あの頭皮の痛がゆさを思い出すと、再び染める気にはなれなかった。夫や息子の言葉は気になったが、まずは自分の心身の健康を守りたいと思った。
「職場の同僚や友人たちにも聞いたんですよ。この髪、ダメかなあって。正直に言ってと頼んだら、やはり年齢より老けてみえるかもと言った人はいました。でも大多数は『自分の好きなようにすればいいと思う』だった。そもそも何の権利があって、夫や息子は私の髪の色を指定したがるのか。だんだん腹が立ってきました」
少し笑いながらサオリさんはそう言った。たかが髪、されど髪。本人のみならず家族がどう思っているかは気になるところだろう。
「結局、染めることなく今に至っているんですが、テレビで同世代の芸能人などがきれいな髪をしているとやはり目がいってしまう。そのつど夫が『素敵だよね、この人』と言ったりすると、『染めろってこと?』とキツく言い返してしまう自分がいる。私自身がやはり周りの目を気にしているということなんでしょうね」
グレイヘアを楽しんでいるつもりだったのに、ここへきて気持ちが揺れている。サオリさんは少しせつなそうな表情になった。
それでも、もう少し頑張ってみる。そのうち年齢が私に追いついてくれるはず。夫と息子に対しては、娘と徒党を組んで対抗してみる。サオリさんはきっぱりとそう言った。