昨今、人はやたらと「若く見えること」に執着するようになった。すんなり老いを受け入れてはいけないのだろうか。
「死」より「老い」が怖い
「私、死ぬのは怖くないけど老いるのは怖いんです」モモエさん(59歳)は伏し目がちにそう言った。来年の誕生日がくれば60歳。だが、肌にはシワがほとんどなく、それこそ「奇跡の59歳」に見える。
「だっていろいろやってますもん。シワ消しの注射に週2回のエステ。そこにすべてをつぎ込んでいるといっても過言ではありません」
結婚して30年。ふたりの子どもたちは独立し、今は夫とふたり暮らしだ。夫も同い年で、夫婦関係は良好……のはずだった。ところが夫は最近、テレビで若いタレントを見ると「いいなあ、若い子は」というようになった。
「暗に私が年とったことを皮肉っているんだと思って。私だって好きで年とったわけじゃないわよと言ったら、『オレだってそうだよ。いいじゃないか、共白髪ってやつで』と。いい夫だなと思うでしょ。でも、やっぱり違うんですよ、男と女じゃ。夫には愛人がいるんです。私は知っているけど知らんぷりしてる」
私は「老いたシワだらけのくすんだ女」
夫は、大きくないとはいえ企業の3代目経営者である。結婚して間もないころから女の影がチラチラしていた。それでもモモエさんは夫を嫌いにはなれなかった。「生活のためというよりは、憎めないんですよ、夫のこと。浮気してるでしょと何度も責めたけど、そのたび『オレがいちばん愛しているのはモモエだけ』とごまかされる。私や子どもの誕生日にはちゃんとサプライズでお祝いしてくれるし、休日には凝った手料理を作ってくれることもある。女の影がちらついてもトラブルを持ち込むわけでもない。私は愛されていると思い込むようにしてきました」
ところが夫婦ふたりきりになると、夫は家庭への責任は果たしたとばかり帰宅が遅くなっていった。仕事が忙しいという言い訳が虚しく聞こえる。
「夫の態度が急変したわけじゃないんです。帰宅の遅い日が少し増えただけ。『昔の友だちに会ったり、新たな仕事を作り出したり、これからはもっと自由にやりたい。きみも好きなように生きたほうがいい』と言われました。だけど私はずっと専業主婦で、仲のいい友だちがいるわけでもない。鏡を覗くと、老いたシワだらけのくすんだ女がこっちを見ていた。それでエステに通うようになったんです」
エステティシャンからヒアルロン酸などの注射がいいと聞き、美容整形にも行くようになった。
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