人間関係

自分基準で不快なら「誹謗中傷」と攻撃する匿名アカ…SNSで「意見」すら発信できない異常さ(2ページ目)

パリ五輪の開幕以降、SNSやネット上で「誹謗中傷」という言葉をこれまで以上に耳にするようになった。意見や提言までも「それは誹謗中傷だ」と指摘され炎上するとは、異常事態ではないか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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職場にもある「人格攻撃」や「潰し合い」

2年前、職場でチームリーダーとなったエリコさん(37歳)は、上は43歳、下は24歳という5人の女性部下を持つ。

「最初に言ったのは、私個人を批判するのもOK、システムを批判するのもOK、だけどメンバー同士の人格攻撃や否定はしないでほしいということでした。切磋琢磨することとお互いを潰し合うことはまったく違う。

話し合いの場に、否定や攻撃はいらない。忌憚なく意見を言い合うことと否定し合うことの違いを、みんなで勉強していきましょうということでした」

10代から20代にかけての10年間を海外で過ごしたエリコさんは、「ディベート」を知っている。議論の仕方も研究してきた。だからこそ、相手の人間性を議論の場に持ち出すのは違うと思っていた。

「最初はぎこちなかったけど、そのうちみんな、提言する楽しさをわかってきた。ひとつの提言を通して、だったらこうやればいい、ああやればいいと意見が噴出したんです。

これはいいね、やってみようと思ったとき、『でも、できないんじゃない? ○○さんはいつも気楽に考えているけど、もっと難しい話だよ』と相手の人格を取り混ぜて否定から入っていた人が、『難しいけど、やってみたいよね。そのためにはどうしたらできるか案を出していこうよ』と前向きかつ客観的になっていった。そうなるとみんな仕事へのモチベーションが上がりますよね」

何を言っても否定されない、前向きに受け止めてもらえるとなると、「今までとはまったく違う発想なんだけど」と突拍子もない提言をする人も出てきた。だが、それが案外、新しい企画の元となる。

「批判精神」はアリ、「個人攻撃」はナシ

「ときには私に対して厳しい批判も飛んできましたよ。リーダーはこの言葉の意味をもっと深く考えてほしい、いろんな意見が出ているときにきちんと整理して伝えてほしい、もっと方向性をきちんと示せないのか、根拠をちゃんと説明してほしいなどなど。

落ち込むこともありましたが、それは私への個人的攻撃ではなく、チームリーダーへのまっとうな批判だった。だからそれに応えるよう努力してきたし、努力の経緯も示してきた。だから批判は大事。どうせなら、ぬるい仕事をしたくないみんなの気持ちもうれしかった。未熟でしたが、リーダーという立場を経験できたのは大きかった」

このプロジェクトチームは今年度で終了するが、成果は上がり、すでに目標は達成している。ここから最後まで駆け抜けようとチームは一丸となって仕事を楽しんでいるそうだ。

「チームは話し合いを重ね、濃密で効率的な仕事ができていると思います。最近は、冗談も飛び交うし、みんな本当に仲がよくて、なおかつ刺激的な関係でもある。先日、男性上司に呼ばれて『女性が本気になるとすごいね』と言われてうれしかった。『男の表面的でぬるい仕事ぶりにうんざりした女集団ですから』と言ったら、上司は苦笑していましたけど」

私たちのチームに批判精神は欠かせない。だけど個人攻撃はしない、単なる悪口もご法度。それがみんなに浸透したとき、信じられないくらいチームとしてのパワーが出るのかもしれない。エリコさんはそう言って微笑んだ。
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