年金

2024年の財政検証をチェック!将来の年金額の見通しは夫婦2人で21万1000円?

厚生労働省は5年ごとに行う財政検証で、年金の現況と将来見通しを発表しています。今年は財政検証の年であり7月3日の発表では、現在の経済状況が続けば夫婦2名の年金額は月21万円と試算されています。今回は財政検証に記載されている将来の年金について解説します。

川手 康義

執筆者:川手 康義

ファイナンシャルプランナー / サラリーマン家庭を守るお金術ガイド

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<目次>

財政検証は5年ごとに発表されます

2024年は財政検証の年にあたり、7月3日に厚生労働省から財政検証の結果が発表されました。
 
財政検証とは、年金制度の健全性を評価するために行う調査や分析のことであり、人口や労働力の変化、賃金・物価の上昇などの経済見通しから、将来も年金給付が安定して行えるかどうかを検証します。財政検証は5年ごとに行われ、その結果をもとに年金制度の改善や調整を行い、将来年金を受給する世代(将来世代)が安心して年金を受け取れるようにすることが目的です。
 
今回は財政検証に記載されている将来の年金について解説します。

財政検証で用いられる指標、所得代替率とは?

財政検証では「所得代替率」と呼ばれる指標を使い年金制度を評価します。所得代替率とは、年金受給者が受け取る年金額が、現役男子の平均収入額に対してどれくらいの割合であるかを示す指標のことです。

○所得代替率(%)=年金受給者の年金額/現役男子の平均収入額

例えば所得代替率60%とは、年金受給者の年金額が、現在の現役男子の平均収入額の60%にあたる水準であることを示しており、所得代替率が高いほど現役時代の生活レベルを維持しやすいと言えます。

2024年度の所得代替率は61.2%です

今回発表された財政検証によると、2024年度の所得代替率は61.2%とされています。

具体的には夫婦2人の年金額22.6万円(夫婦2人の老齢基礎年金額13.4万円+夫の老齢厚生年金9.2万円)が、現役男子の平均収入額37.0万円に対する割合をパーセンテージ(%)で示した値です。

2024年度所得代替率:61.2%
・61.2(%)=夫婦2人の年金額22.6万円/現役男子の平均収入額37.0万円

将来の所得代替率は50.1~57.6%

現在の年金制度を維持した場合、将来の年金水準はどうなっていくのでしょうか。

今回の税制検証では「将来の社会・経済状況」について4つのケースを想定し、それぞれの所得代替率を試算しています。4つのケースは、実質経済成長率、実質賃金上昇率、年金積立金の実質運用利回りなどの指標が設定されています。

○高成長実現ケース:56.9%(2039年度)
・56.9(%)=夫婦2人の年金額25.9万円/現役男子の平均収入額45.5万円

高い経済成長とともに、物価上昇を大幅に上回る賃金上昇を前提に試算されています。具体的には、実質経済成長率1.6%、実質賃金上昇率2.0%、実質運用利回り1.4%での試算です。
高成長実現ケースでは将来の所得代替率は56.9%と試算されています

高成長実現ケースでは将来の所得代替率は56.9%と試算されています

成長型経済移行・継続ケース:57.6%(2037年度)
・57.6(%)=夫婦2人の年金額24.0万円/現役男子の平均収入額41.6万円

経済成長が漸増し、物価上昇を超える賃金上昇を前提に試算されています。具体的には実質経済成長率1.1%、実質賃金上昇率1.5%、実質運用利回り1.7%での試算です。
成長型経済移行・継続ケースでは将来の所得代替率は57.9%と試算されています

成長型経済移行・継続ケースでは将来の所得代替率は57.9%と試算されています

過去30年投影ケース:50.4%(2057年度)
・50.4(%)=夫婦2人の年金額21.1万円/現役男子の平均収入額41.8万円

経済は停滞するものの、物価上昇を賃金上昇がやや上回ることを前提に試算されています。具体的には実質経済成長率▲0.1%、実質賃金上昇率0.5%、実質運用利回り1.7%での試算です。
過去30年投影ケースでは将来の所得代替率は50.4%と試算されています

過去30年投影ケースでは将来の所得代替率は50.4%と試算されています

1人当たりゼロ成長ケース:50.1%(2059年度)
・50.1(%)=夫婦2人の年金額19.1万円/現役男子の平均収入額38.2万円

経済は減速し、物価を上回る賃金の上昇がほぼない状況を前提に試算されています。具体的には実質経済成長率▲0.7%、実質賃金上昇率0.1%、実質運用利回り1.3%での試算です。
1人当たりゼロ成長ケースでは将来の所得代替率は50.1%と試算されています

1人当たりゼロ成長ケースでは将来の所得代替率は50.1%と試算されています

*実質賃金上昇率とは、労働者が実際に受け取った賃金(名目賃金)から物価の変動を取り除いた指標のことであり、物価変動を上回る賃金が得られているかを表しています。
*(2039年度)(2037年度)などのカッコ内は給付水準調整終了年度であり、所得代替率はその年度の試算です。
*将来の年金額は物価上昇率で2024年度に割り戻した実質額で示されています。
*実質経済成長率や実質賃金上昇率は「高成長実現ケース」の方が「成長型経済移行・継続ケース」より高いのに、「高成長実現ケース」の所得代替率が「成長型経済移行・継続ケース」より低いのは、年金積立金の実質運用利回りが低いためです。

現在の社会状況に近い試算はどのケース?

財政検証で試算された4ケースの中で、現状に近いのはどれなのでしょうか。

現在の日本経済は実質経済成長率1.0%(*1)であり、物価の上昇に比べ、賃金上昇が追いついてはいないものの上昇傾向にあります。これに近いのは「過去30年投影ケース」であり、今後もこの状態が続くのであれば、夫婦2人の将来の年金額は21.1万円、現役男子の平均収入額41.8万円に対する所得代替率50.4%(2057年度)が近い姿になるのではないでしょうか。

*1:内閣府年次GDPデータ(2023年度)より

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は7月3日に発表された財政検証にある、将来の年金見通しについて解説してみました。

今回の財政検証では、4つの「社会・経済状況」に分けて将来の年金を試算していることは前述の通りですが、それ以外にも「出生率」「平均寿命」「入国超過数」といった日本の人口に関わる前提や、「就業者数」「就業率」といった労働力に関する前提も加味されています。つまり何らかの要因でこれらの前提が崩れると、将来の年金見込みが変化する可能性があることには注意が必要です。

今回の財政検証の結果を受け、来年行われる年金制度改正の具体案が年末までにまとまる予定ですので、今後の年金関連の報道に注視しておくことをお勧めいたします。

《参考》
厚生労働省 第16回社会保障審議会年金部会資料
内閣府
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
日本銀行
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