母は常に「お姫様」でいたい人
それまでも母は浮気をしていたのかもしれないと、タカコさんは過去の記憶を振り返った。中学生のころ、母親が夜になっても帰宅せず、3歳違いの弟とインスタントラーメンを作って食べたこともあった。あの時期、夫婦げんかが頻発していたような記憶がある。ただ、母は飽きるのも早かったのか、すぐにいつもの日常が戻ってきた。そんなことが数回、あったのではなかったか。
父もそのうち、知っていながら知らんふりをしていたのか、大きく揉めることはなくなっていった。
「どういう夫婦だったんでしょうか。ただ、父は入院中、やはり母を頼っているところがありました。一方、母は父を心配しているのかどうかもよくわからなかった。母はいつもそうなんです。なんだか心ここにあらずというか、ふわふわしていて」
そんな母の影響からか、「私は女を売りにするようなことができない、かわいげのないタイプになりました」とタカコさんは言う。
スカートははかないし、恋愛らしい恋愛も数えるほどしかしなかった。そして「女らしさ」を求められていると思った瞬間、その相手からは離れていった。
「母のような女にはなりたくなかったし、母のような女が好きな男にも近づきたくなかった。父は別ですが、ときどき父に対しても、どうしてあんな女がいいのと言いたくなったことがあります」
その後、父は退院して自宅療養をしていたが、その間も母はほとんど面倒を見ず、外出していたという。パートで働いている母が、そんなに「残業だの出張だの」があるはずはない。
「コロナ禍でも母は、仕事があると出かけていたようですが、パートは自宅待機の時期が結構長かったというのが本当のところみたいです。ただ、父が母を非難したりしていないので私から何か言うわけもいかなかった。
弟は『夫婦のことなんだから放っておけばいいんだよ』と言っていたけど、私はひとりでやきもきしていました」
妻なのに「ふしだら」な母が許せない
父がかわいそうだという思いもあったが、妻である母の、女としてのふしだらさが許せなかったとタカコさんは言う。「ふしだら」とは懐かしいような言い方だが、タカコさんから見ると、母のありようは苛立たしいのだろう。「今は父も元気になっていますが、母は相変わらずみたいです。なんだかあの夫婦を見ていると、私は結婚どころか恋愛する気さえなくなってしまう。なぜかうちは弟もいまだにひとりなんですよ。親の影響が大きかったんだろうと私は思っています」
華やかで“女”をまき散らす人が母親であるという事実は、タカコさんの性格上、かなり重いのだろうし自身の生き方も左右されてきたのかもしれない。当の母は、そんなことに気づいてもいないかもしれないが。
「母を気にすることなく生きていきたいんですけどね、本当は」
最後に言ったこの一言が、彼女の真意なのだろう。