カフェや飲食店にも「トナラー」出没
平日に代休をとったレイコさん(32歳)は、週末が休みではない女友だちと会うため、約束のカフェに出かけた。女友だちはまだ来ていなかったので、広い店内の奥のほうに座った。「スマホを見ながら待っていたら、人が近づいてくる気配があったので、友だちが来たと顔を上げたら、まったく知らない女性でした。彼女、何を思ったのかすぐ隣のテーブルに座ったんです。こんなに広い店内で、しかもまばらにしか埋まってないのに、なぜそこへ来たと心の中で問いかけましたよ(笑)。じろっと見たけど彼女は反応せず。どういう人なんだろうと思いました」
その後、友だちが来たのでレイコさんは目配せし、店員に別のテーブルに移りたいと頼んだ。移動後、友人にその話をすると、友人も「不思議だよね。もしかしたら人の話を聞きたいんじゃない?」と言ったが、あの時点ではレイコさんもひとり客に見えたはずだ。
「『広い店内だと、逆に人の近くのほうが安心する人もいるのかも』、と友人が言ったんです。それはちょっと納得できました。私はそういうとき人を避けるけど、無意識に人のそばに行ってしまう人もいそうだな、と。物理的、心理的な人との距離感の違いなんでしょうけどね」
後日、付き合い始めたばかりの彼とデートをしたレイコさん。あるカフェで待ち合わせたのだが、彼が先にカフェに入っていくのが見えた。あとを追って入ると、彼が人が座っているテーブルのすぐ隣に座ろうとしていた。
まさか!? 自分の彼がトナラーだった
「慌てて、あっちにしようと席を示しました。そのカフェもけっこう広くて、空いていたんですよ。それなのに彼は女性ふたりが話し込んでいるすぐ隣に座ろうとしていた。以前、私がやられたのと同じことを彼がしようとしていたわけです(笑)。別の席に座ってから、どうしてあそこに座ろうとしていたのと尋ねたら、『え、何が?』と。説明すると、彼は『何も考えてなかった。入って目についた空いている席に座ろうとしただけ』と答えたんです。入って左側のほうが空いていたんですが、彼は真っ正面しか見ていない。自分の視野の中で空いている席に座ろうとしただけだった。そういう人もいるんだなと思いました」
同時にレイコさんは、この人、何かにつけてそういうふうに何も考えない人なのか、あるいは単純なのかと考えてしまったそう。それから数カ月経つが、今のところは「単純だけど優しい人」と評価しているという。
「でも物理的距離を気にする人もいるということだけはわかってね、と彼に言っておきました。あまりピンと来てなかったみたいだけど(笑)」
人に入られたくない『パーソナルスペース』の範囲は個人差があるという。他人にすぐ近くまで来られてもなんとも思わない人もいるし、親しさに比例してパーソナルスペースが変動する人もいるだろう。それもまた、人それぞれなのである。