貯蓄達人というより「投資達人」の41歳の会社員が登場
自らの努力と工夫で数千万円の貯蓄を手にした方に、その極意を語っていただく「貯蓄の達人」。今回は、41歳で7000万円の資産を保有する「ケンタッキー」さんに登場してもらいます。■基本データ
ケンタッキーさん(仮名)
男性・41歳・東海・会社員
独身
金融資産7000万円の95%超がリスク資産
貯蓄達人シリーズには、たまに「投資に積極的ですが、貯蓄も励んでいます」というタイプの方がいます。しかし、今回は突き抜けています。ご登場いただくケンタッキーさんは、投資商品の比率が95.68965517……%。もはや、限りなく「貯蓄の達人」感が希薄な達人です。
ところがです。マネー記事で何かと引用される、総務省「家計調査報告」の平均貯蓄率や平均貯蓄額には、有価証券が含まれています。つまり株式や債券は、貯蓄とみなしているわけです。
つまりは、狭義では、元本保証の預金商品を使って資金を貯める行為や資金そのものが「貯蓄」ですが、広義では、株式も不動産も保険も含めた金融資産となるわけです。
と、若干言い訳がましくなりましたが、そこまでしてもご紹介したくなるケンタッキーさん。今風に言えば、「資産形成の達人」でしょうか。ともあれ、その中身を見てみましょう。
中小企業診断士講座でのファイナンス授業が投資のきっかけに
ケンタッキーさんは年収(手取り額)860万円、生活費が月18万3000円ですから、年間約220万円。結果、640万円が年間黒字となります。年間には不定期支出も当然ありますが、ボーナスもほぼほぼ投資に回しているとのことですから、勤務先からの収入からは、年間600万円前後が投資資金額となります。ほかに、投資商品の配当金も再投資されますので、実質は最大で投資金額が年間700万円程度となる年もあるでしょう。そして、預金は現在、総額300万円とありますが、これ以上の上積みは基本的にはありません。
「独身だからということもありますが、預金として常時300万円あれば、出費で困ることはあまりないと考えています。仮に、さらに現金が必要となれば、有価証券は流動性が高く、すぐに現金化できるので」
そもそも20代の頃は、あまり物欲もなく、趣味も映画や運動とさほどお金がかからないため、自然に財形貯蓄に貯まっていったといいます。
資産形成を投資にシフトしていったのは、30代半ば。転職による退職金や、財形貯蓄を取り崩しにより、預金=現金が増えたとき、銀行から投資をしてはどうですかと電話があったのが、きっかけとなりました。
ケンタッキーさんはMBAや中小企業診断士講座で現代ポートフォリオ理論を学んだそう
個別株はあえて購入しない!?
ケンタッキーさんの投資商品(リスク資産)の評価額は現在6660万円。その内訳は以下のとおりです。①米国株式:2700万円
・ETF(バンガード・トータル・ストック・マーケット、バンガードS&P500、iシェアーズ・コア米国高配当株、SPDR®ポートフォリオS&P500高配当株式)計2530万円
・NISA170万円(旧NISAを含む)
②投資信託:3100万円
・SBI新興国株式、楽天全世界株式、楽天オールカントリー、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)等で計2330万円
・NISA770万円(旧NISAを含む)
③自社株・持ち株会:520万円
④確定拠出型年金:340万円
①は米国株式と記しましたが、あくまでETFで購入しています。個別株として購入しているのは、割り増しで購入できる持株会だけ。したがって、ほぼ投資信託による資産形成とも言えます。
「個別株を購入しないのは、株式投資については、ファンダメンタルズ分析が必要となりますが、現状では、そのための時間とリスク、リターンを考えたとき、サラリーマンとしての稼ぎの方が大きいと考えています」
また、懸念点として、多くのアクティブファンドがインデックスファンドに勝てないと言われることも、あえて個別株を購入しない理由と言います。
自動的に富が増え続けるお金と時間の法則
ケンタッキーさんは投資の特徴として、もうひとつ。購入のタイミングを加味せず、資金が入れば、即購入している点にあります。ここには、ニック・マジューリ著「JUST KEEP BUYING」が唱える投資法の実践があります。この本には「自動的に富が増え続けるお金と時間の法則」という、魅力的な副題が付いています。
「細かなタイミングよりも、継続して今ある現金を、収益を生み出す資産に変えていくことが大切ということです。そもそも、私は仕事が忙しく、投資に多くの時間は使えないため、タイミングを読むことはできませんが、投資で重要なのはタイミングではなく、余剰資金を株式市場に投資することだと考えています」
また、それに関連して、著名なフランスの経済学者トマ・ピケティの不等式「r>g」も、投資に積極的な理由となっているとのこと。「r」は資本収益率、つまりは株主や地主が得られる収益率。対して「g」は経済成長率ですから、給与の伸び率となります。平たく言えば、結果的に長くコツコツ働くより、投資の方が利益は大きいということです。
スペースの関係で割愛しますが、ほかにも、CAPM理論などが、ケンタッキーさんの投資法や考え方の基盤になっていると言います。要は、しっかり勉強して得た確証と、現状を客観的に分析してたどりついたのが、今の投資スタイルということです。
「加工スタッフ求む」勤務地デンマークの港町。筋子(すじこ)工場で住み込みアルバイト
何だか、経済学の講義みたいになってしまいましたが、ここまでの展開だと、ケンタッキーさんのすべての思考が無駄を省いた圧倒的理論派というイメージに映るかもしれません。では、それを覆すようなエピソードをひとつ。大学4年のとき、大学の校内に貼ってあったアルバイトの求人案内。内容は「デンマークの筋子(すじこ)工場で住み込みによる加工スタッフ募集。渡航費、食費は会社負担」。当時、食品会社への就職が決まっていたケンタッキーさんは、近い経験ができるのではと応募しました。
「あの頃は、どんな不合理なことがあっても、耐えられる仕事の経験が自分には必要と感じていました」
内容は、作業員5名で毎日2~3トンの筋子を塩漬けにして日本へ送るというもの。朝6時から翌深夜2時まで働いたこともあり、労働環境は常識的に完全にアウトだったとか。2カ月間働いて、振り込まれたのは40数万円でした。
あれから、20年近くが経ち、そのバイト代は巡り巡って、今ある資産の最初の「種」となっています。
実践されている貯金を増やすコツについてお教えください
ケンタッキーさんが実践している貯金を増やすポイントは以下の2点です。■資産を伸ばす
余剰資金は投資する。
→投資を開始した2021年から年間平均で1000万円程度は総資産が伸びています。
■支出を管理する
支出は現金を使わずカードで管理する。
※支出のモニタリングをする
家計簿をつけて余計な支出がないか見極める。
ケンタッキーさんの今後の目標
金融資産の目標額としては45歳までに1億円。また、その資産をもとに、独立開業や首長、議員の立候補も考えている。「現状、子どもたちへの教育、投資が足りない」というのが、その理由。★マネープランクリニック編集部では貯蓄達人からのメッセージを募集中です★
取材・文/清水京武