「3人目だから大丈夫」という謎の言葉
3人目だから「大丈夫」とは、どういう基準で言っているのか
「そもそも私に何を食べたいかとも聞かずに注文していたんですよね。私は実はなぜか豚肉の生姜焼きが食べたくてたまらなかった。それとサラダ。病院食はおいしかったけど、個人的には嫌というほど、レタスとトマトを使ったサラダを食べたかった」
冷蔵庫を開けるとレタスとトマトはあった。夫にサラダを作ってほしいと頼んで、サエリさんは赤ちゃんの隣で少し横になった。
「ママ」という声に目を覚ますと、長女が立っていた。ママのごはん、作ったから持ってくるね。長女が運んできたトレイを見ると、豚の生姜焼きとサラダがあった。
「ごはんとお味噌汁もあるからね、と長女。ちょっとどういうことなの? と起きてリビングに行ってみると、義母と夫はお鮨を食べながらお酒を飲んでおり、次女は泣きそうな顔で座っていましたが、私の顔を見ると『ママ!』と走ってきて。受け止めきれないから思わずしゃがんで抱きしめました」
8歳の娘に妻の食事を任せた夫、それをなんとも思わずに酒を飲みながらお鮨をつまんでいる義母。なんなのこの構図、とサエリさんの中で何かが爆発した。
「お義母さんもあんたも、いったい何してるわけ? こんな小さい子に食事の支度をさせて。私はあなたに頼んだのよ、と夫に言うと、『オレ、疲れちゃってさ』って。出産した私のほうがよほど疲れてる。子どもたちに先に食べさせてやってくださいよと義母に言うと、『ごめん、私、さっきから飲んじゃってるからさ。でもそもそもあなた、3人目でしょ。慣れてるじゃないの』って。言い訳にもならない」
結局、サエリさんは娘ふたりとダイニングのテーブルに移動、子どもたちの分のお鮨をとりわけ、長女が作ってくれた生姜焼きやサラダを分けあって食べた。
夫と義母への憎しみが湧く
「ショウガは皮がついたままだったし、サラダもレタスがちぎってなかったりしたけど、娘の気持ちがありがたかった。一方で、せっかく退院してきたのにどうしてこんな思いをしなければいけないのだろうと夫と義母に憎しみがわきましたね」ひたすらお祝いしてもらいたい日に、なんともやるせない気持ちにさせられた。義母はそのままリビングで寝込んでしまい、翌日の昼過ぎにようやく帰っていったという。
「何をしにきたのか、手伝うどころかビールの缶をいくつもそのあたりに置いたままです」
その後、カレンダー通りに仕事をしている夫は、平日3日間、毎晩飲んで帰ってきた。連休後半は予定がなさそうだったので、上のふたりをどこかに連れて行ってあげてよと言うと、「無理だよ。ふたりとも連れていくのは」と夫ははなからやる気がない。結局、昼間はひとりでぶらりと出かけていた。
「近所のママ友に頼んで、ふたりを公園に連れていってもらいました。ママ友がひどく同情してくれて、『子どもの日、うちの子と一緒に遊んでくれない?』と言って、子どものためのイベントにも連れて行ってくれた。その家のパパも一緒です。うちの子たちもすごく楽しかったみたい。最後は外で食事までさせてもらって……。なんだか情けなかった。うちの夫は自分の子さえろくにめんどうみないなんて」
自分が軽々と行動できるならいいが、乳飲み子を抱えてあとしばらくは身動きがとれない状態。そんなときに寄り添わない夫に、存在価値があるのだろうか。サエリさんは身も心も重くけだるいと涙声になった。