「産休クッキー」は配慮が足りない?
「いい話」「クッキーかわいい」という声がある一方で、「妊活している人、子どもができない人への配慮が足りない」という声も聞かれた。またそんな話かと辟易(へきえき)する声も多かった。「そんなこと言ったら、結婚式さえできなくなる」「社会人なら、にっこり笑ってありがとうともらっておけ」という意見もあって思わず頷いた。
クッキーを配った人は、妊娠を直接自分の口で発表する機会もないし、仕事上迷惑をかけるのも明らかだからというシンプルな思いだったのかもしれない。だが、産休や育休は労働者の権利。それについて文句を言うのはおかしいし、そもそも職場内に「お互いさま」という意識がないなら、それは企業側の体制ができていないからということになるだろう。
そして他人の幸せを素直に受け取れない人がいるのも、今の世の中を象徴しているのかもしれない。
独身女性上司が気の毒になったけど
「うちの部署でもありましたよ。産休に入る20代の後輩が、みんなにクッキーを持ってきたことが。ただ、彼女は『いわゆる産休メッセージの入ったクッキーって、なんだかちょっと……と思ったので』と、行列ができる有名店のクッキーをくれたんです。相当前から予約したみたい。これにはみんなテンションが上がりましたね」ミチコさん(35歳)はそう言った。40代後半の女性上司も「これ、食べてみたかったのよ」とうれしそうだったという。
「ところがあとから、周りでは『さすがに上司は悔しそうだったよね』『見ていて痛々しかったわ』という声がありました。そんなことあるわけないんですよ。その上司、昔から結婚には否定的だったんですから。上司のことをよく知らない人たちが言っているだけ。そういうことがあるから、周りの男性社員たちは『女って怖い』とドン引きするんですよ」
とはいえ、ミチコさんは「産休クッキー」には賛同しないという。職場でそこまで気を遣ったら、産休に入る人はみんなやらなければいけない空気ができあがってしまう。自身の病気や親の介護で休職する人もいるのだから、いちいちそこまで気を遣う必要はないだろう、と。
「たぶん、うちは今後、産休クッキーは禁止になると思います。個人がそんなふうに気を回さないと仕事や人間関係がうまくいかないような職場は困りますよね」
産休をとる人の気持ちもわかるが、職場としてはそこまでする必要はないという共通認識ができればいいのだが……。
個人の自由だから「大賛成」との声も
一方で、「産休クッキー、大賛成です」という声も。「いいじゃないですか、こういう気遣いができる人が職場にいるのは」
マリさん(40歳)はそう言う。彼女自身は2児を育てながらの共働き。自身も時短で仕事をしていた時期があり、周りに迷惑をかけた思いは残っている。
「私のときもこういうのがあれば使いたかった。自分の口でメッセージを伝えろという声もあるけど、そうなると重いんじゃないでしょうか。クッキーをさらっと配って、さらっと産休に入るなんてセンスいいと思いますけどね」
「産休クッキー」若い社員はどう感じるか?
だが、マリさんの同期であるミユキさんは、産休クッキーには大反対。ミユキさん自身、現在妊活中で、「年下の若い社員がこんなクッキーを配ったらイラッとくる」と言っているそうだ。「そんなにいきらなくてもと思いますが、こればかりはさまざまな立場がありますからね。ただ、私は人に迷惑をかけない限り、個人の自由だと思っています。産休クッキーで思いを伝えたい人もいれば、そんなことしなくても復帰してからきちんと仕事をすればいいと思う人もいる。
大事なのは、どちらの立場の人に対してもフラットに接することなんじゃないでしょうか。自腹を切ってクッキー渡して文句を言われるなんて割に合わない(笑)。かといって大人ばかりの職場で、こういうのは禁止とするのも野暮な話」
そしてもっと大事なのは、日頃からの人間関係だろうとマリさんは言う。いつ誰が休みをとる事態になっても、「仕事を押しつけられる、こっちの負担が増える」と思う前に、「大丈夫?」と相手の身になって考えられる空気があれば、産休クッキーごときにとやかくいう声は出てこないのではないか、と。マリさんの言葉、言い得て妙ではないだろうか。