ドラマ「正直不動産2」の中で出てきた違法行為の「契約の誘引」は実際にあるものなの?
ブラックなイメージが拭えない不動産業界。ドラマ「正直不動産」で描かれるような悪徳営業は本当にあるの?――。
山下智久さんが演じる、嘘のつけない不動産営業マン・永瀬財地が活躍する不動産業界のお仕事コメディーシリーズ第2弾「正直不動産2」(NHK総合)。
2月20日の第7話の放送内容を踏まえ、不動産を売買する場面での手付金に関連して、住宅業界のここだけは気をつけたいポイントを確認していきましょう。
第7話の放送内容のおさらい、ネタバレ
登坂不動産の永瀬は、会社が提携する光友銀行の融資担当の美波(泉里香)から恋人のふりをしてほしいと突然頼まれる。秋田の祖母から見合いを勧められ、「結婚を考えている人がいる」とつい嘘をついてしまったという。それからほどなくして、永瀬と月下(福原遥)のもとに、結婚を控える孫娘のためにタワマンを購入したいという高齢の女性客が訪れる。しかし、タワマンの購入は予算的に難しいことを伝えると、高齢女性は意気消沈して帰ってしまう。
ライバル会社のミネルヴァ不動産を訪れた高齢女性は、契約を取るためなら手段を選ばない神木(ディーン・フジオカ)の口車に乗せられ、欠陥のあるタワマンを売りつけられそうになる。実はこの高齢女性こそが美波の祖母だったのだが……。
住宅業界ここは気をつけたい! 契約の誘引とは?
ドラマの本筋としては上で述べた流れだったのですが、今回は、ドラマの中で登場した「契約の誘引」という専門用語に注目したいと思います。ドラマでは、ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)が、マンション購入の手付金500万円を払えないという顧客に対し、契約を獲得したいために、「手付金の500万円はこちらでご用意します。後日返済していただければ結構です」と提案する場面があります。このような行為を「契約の誘引」といいます。
契約の誘引とは、買主が手付金の準備もできていないのに、不動産屋さんが手付金を貸したり、手付金は分割払いでもよいと約束したりするなどして、購入意思が確定していない状態で契約を急かす行為のことをいいます。
このような行為は、契約の解除をめぐるトラブルを回避し、買主を保護する観点から、宅建業法47条3号で禁止されているれっきとした違法行為です。不動産屋さんに6カ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が課せられます。
では、契約の誘引が実際に行われることはあるのでしょうか。
結論を言えば、宅建士の資格を持っていない不動産営業マンであっても知っている違法行為なので、実際に行われることはあまり考えられません。
また、仮にこのような手付金の貸与が行われ、買主の事情で解約する場合であっても、今回のドラマのように、違法行為であることを不動産屋さんに指摘すれば、不動産屋さんもおじけづいて尻込みし、手付金の返済を迫られるなどの不当な請求を買主が受けることはないでしょう。
売主についても、手付金を返す必要がないため、契約の誘引という違法行為を行った不動産屋さんが、結果的に損することになります。
違法ではないが……少額手付のトラブルにご注意!
ここまで述べたように、違法行為の契約の誘引については契約の当事者は法律で守られています。しかし、違法行為ではない少額手付の場合、不動産屋さん(仲介業者)の契約の進め方によっては、トラブルの危険性をはらんでいるため注意が必要です。手付金の額には法的な取り決めはありませんが、実務上、売買代金の5~10%の額の手付金が授受されることが一般的です。しかし、仲介業者が契約を成立しやすくするために、10万~50万円程度のいわゆる少額の手付金で契約を成立させることも少なくありません。
この少額手付自体は違法ではないのですが、いくつかの注意点があります。少額手付の場合には、手付の放棄によって契約が解約されやすい一方、解約になった場合にも仲介業者から仲介手数料の支払いを請求される可能性があることを覚えておきましょう。
解約になった不動産売買契約と不動産媒介契約(仲介手数料を支払う根拠となる契約)とは全くの別モノで、仲介手数料は売買契約が成立した時点で発生します。
例えば、3000万円の物件の売買の場合、一般的に仲介手数料として約100万円が必要ですが、少額の10万円を手付としていたケースを考えてみましょう。
買主の事情で解約する場合、買主は手付の10万円の放棄だけで解約できるかと思いきや、不動産取引としては解約するものの一度は成立したため、仲介業者に対して約100万円の仲介手数料を支払わなければならず、手付金の額以上の損失を被る可能性があります。
逆に、売主の事情で解約される場合、買主にはまず支払った手付の10万円が返され、さらに、手付金と同額の10万円が売主から買主に支払われます。これを「手付の倍返し」といいます。10万円のプラスになるかと思いきや、買主の事情で解約する場合と同様に不動産取引としては解約されるものの一度は成立したため、仲介業者に対して約100万円の仲介手数料を支払わなければならず、結果的には、約90万円の損失を被る可能性があります。
仲介業者の中には契約の成立を優先し、この仕組みを十分に説明しない業者が多いことに注意する必要があります。
もちろん、このようなトラブルを回避するため、特に少額手付の場合には、途中解約があった場合には、仲介手数料を半金にしたり、全額返したりするといった方針の仲介業者もあります。
少額手付の場合、仲介手数料の定め方によっては、予期せぬマイナスを被ることがあることに注意しなければなりませんし、そのような事態にならないように、契約を取りまとめることができる不動産屋さんこそが「正直不動産」といえるのではないでしょうか。
文:みちば まなぶ(ファイナンシャルプランナー)
大学卒業後、大手ハウスメーカーや不動産業者などを経て、住宅ローンを切り口に、住宅購入をはじめとしたライフプランニングを提案する1級FP技能士。
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