転職のノウハウ

10回以上もの転職を実現した“転職リピーター”の実話。「転職回数の多さ」は一律で不利ではない?

中途採用をする企業側も、転職者側も、転職回数を気にする人は多い。「転職回数の多さ」には一般的にネガティブなイメージがあるのだろう。今回は、転職を10回以上実現したという人の実話を紹介する。一体どうしたら、それだけ多くの転職を実現させることができたのか。そこには、“売れる人材”のヒントがありそうだ。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

転職

転職回数の多さにネガティブなイメージを持つ人は少なくない

中途採用をする企業側も、転職者側も、転職回数を気にする人は多い。「転職回数の多さ」には一般的にネガティブなイメージがあるのだろう。今回は、転職を10回以上実現したという人の実話を紹介する。一体どうしたら、それだけ多くの転職を実現させることができたのか。そこには、“売れる人材”のヒントがありそうだ。

転職回数が多い人へのネガティブイメージはどこから来ている?

「転職回数が3回までの人を紹介してください」

人材紹介会社の担当者が、ある企業の人事部長から採用条件として聞いた言葉であるという。その理由は何だろうか。

中堅~大企業から初めての転職を試みる比較的若手の層、20~30代であれば、転職回数は過去にない、もしくは転職は1回か2回という人が中心になるだろう。しかし、ベンチャー企業や外資系企業勤務の求職者の場合、20~30代の若手層でも転職回数が3回、ないしそれ以上ある人は珍しくない。

しかし、採用する企業も、転職する本人も、転職回数を気にする人は実際多い。そこには、どことなく転職に対してネガティブなイメージを持っているからだろう。転職したい人の転職理由は、通常は3つに集約される。「仕事内容への不満」「待遇への不満」そして「人間関係への不満」である。これら3つの理由は、1つでも転職を考えるのに十分な動機となるが、複数の理由が同時多発的に起きている場合も多い。

この「人間関係の不満」に対して、企業側は拒否反応を持つことがある。実は職場の人間関係がうまくいっていなかったのではないか、協調性のない人間なのではないかという疑いをかけるのだ。

例えば職場の人間関係がこじれやすい人の場合、その原因は自分の態度や習慣、モノの考え方に原因があることも多い。その場合、職場を何度変えても似たような問題はその度に起きてしまう。自分に落ち度があることを正しく認識して自分が変われれば、負の連鎖を断ち切ることはできるかもしれないが、自分が変われない場合、問題は再発を繰り返すことになり、転職を同じようなパターンで定期的に繰り返すことになる。

このような人間関係をこじらせる人物であると思われてしまう懸念から、求職者の中には、相手から聞かれてもいないのに「現職の人間関係の良さ」をアピールする人もいる。転職市場で、「上司や同僚など、本当に職場の人間関係には恵まれているのですが」というのは求職者からよく聞くフレーズだ。

転職回数が多い人に対するネガティブなイメージはおよそこの「職場の人間関係への影響」への懸念や、どんな仕事でもすぐに飽きたり、不満を持ったりして辞めてしまうのではないかという懸念などから来ているだろう。

転職を10回実現してきた男性

そんな中、転職を10回繰り返した人から話を聞いたことがある。つまり、10回も転職を成功させているということだ。その人は40代半ばの男性で課長職にあり、財務・経理のエキスパートであった。20数年の勤務歴の間に11社で働いた計算になるため、各社平均約2年の勤務歴になる。

初対面の時、本人の物腰の柔らかさに、なぜこの人は転職を繰り返しているのか、少し理解に苦しんだ。同時に、自分も転職回数の多い人に対して、もしかしたらこの人は対人関係が苦手なのではないかと、少しうがった見方をしていたことにも気がついた。この男性は、対人関係が苦手などころか、むしろ完璧なまでの人への気遣いと人あたりの柔らかさを持っている人物であり、すっかり本人の人間的な魅力に引き込まれてしまった。

ではなぜ転職を繰り返したのか。例えば給料や昇進など待遇に不満があったのかと思って聞いてみた。すると、その点も全く当たらないことが分かった。本人は独身であり、収入には無頓着であることにも気づかされた。財務・経理のエキスパートであり、仕事のできる人物であることも次第に分かってきた。

本人に直接ズバリ、過去10回の転職理由をそれぞれ聞いてみたところ、快く本音で話してくれた。

転職市場で引く手あまたな“転職リピーター”の強みとは?

この男性が、転職を繰り返し実現できた理由は、本人が「火中の栗を拾う仕事」に挑戦してきたからであった。

具体的に言うと、男性が渡り歩いてきた会社というのは、業績が急激に悪化した会社、粉飾決算が発覚した会社、買収された会社、大きな訴訟に巻き込まれた会社など、要するに何かしらの深刻なトラブルが起きた会社ばかりであったのだ。いわばトラブル請負人のようなスタンスで、それらのトラブルが起きた会社へ転職をして、比較的短期間で問題を解決するための仕事を受けていたのである。

本人によれば、最初からそうしたトラブルに直面した仕事がやりたかったわけではなかったという。たまたま最初に働いた複数の会社でトラブルが起きて、そこでトラブル対応を学んだことで、特別な状況下での仕事の進め方に詳しくなっていったというのだ。結果的に毎回転職した形にはなるが、それぞれの会社では求められた仕事をしっかりとこなし、問題が解決した頃合いで自分の役割は終わったと認識し、毎回円満退職をしてきたという。辞めた会社の経営者たちとは、今でもとても良好な関係であり、退社後もコンサルティングの仕事を依頼されるような関係を維持しているそうだ。

サラリーマンではありつつも、フリーのコンサルタントであるかのような意識を持って毎回転職先を探していたのだろう。トラブルのある会社を探し、トラブル解決の実績を披露して即採用となっているのだ。転職を繰り返しながら自らの専門性が高まり、実績も積み上がる。トラブルが起きている会社に希望して入りたい求職者は通常あまりいないこともあって、常にこのニッチな転職市場で引く手あまたな状態だったのである。

キャリアとは何か、売れる人材とは何かを考えたとき、この転職リピーターのキャリアストーリーには多くのヒントが隠されている。また企業側も、単に転職回数が多いからと言って最初から毛嫌いしていては見えてこないものがあることが分かるだろう。

「転職したかったわけではないが、転職を繰り返したことには納得している」

男性のこの言葉からは、どの職場でも主体的に仕事に取り組んできた姿勢がうかがえる。
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