資金計画の提案の仕方で不動産屋の「正直度」がわかる?
山下智久さんが演じる、嘘のつけない不動産営業マン・永瀬財地が活躍する不動産業界のお仕事コメディーシリーズ第2弾「正直不動産2」(NHK総合)。
2月6日の第5話の放送内容を踏まえ、マイホームを購入する場面で住宅業界のここだけは気をつけたいポイントを確認していきましょう。
第5話の放送内容のおさらい、ネタバレ
登坂不動産の永瀬は中学時代の同級生からマンションの購入に関する相談を受ける。友人のために全力を尽くす永瀬の一方で、ライバル会社であるミネルヴァ不動産の神木(ディーン・フジオカ)は、この同級生の夫にフラット35の「裏技」とやらを教えて、結果的には破滅への道に……。フラット35のメリット・デメリット
今回の「正直不動産」では、永瀬の同級生がフラット35と民間の住宅ローンのどちらを選ぶべきかで悩む様子が、ドラマの中心的な話題として取り上げられています。フラット35とは、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する最長35年の「全期間固定金利型住宅ローン」のことをいいます。資金の受取時に金利と月々の返済額が確定するため、将来の金利上昇リスクを回避することができ、長期にわたるライフプランを立てやすいというメリットがあります。
一方、デメリットとしては、民間金融機関の取り扱う変動金利型(*)の住宅ローンより金利が高くなることが挙げられます。
*ローンの返済期間中に金利が上昇したり下降したりする可能性のある金利タイプ
ドラマの中では、金利が下がる場面で低金利の恩恵を受けられない点もデメリットとして挙げられています。しかし、今春にも日本銀行のマイナス金利政策が解除され、これから住宅ローンの金利も上がるのではないかと叫ばれている現在にあっては、あまり考慮する必要のないデメリットといえるでしょう。
フラット35は危険なの?
ドラマの中でたびたび出てくるフラット35。強引な営業をしがちなミネルヴァ不動産は「自営業の方がマイホームを買うのに適したローンなんです」「転職後、勤続1カ月でも(申し込み)可能です」などと、ありとあらゆる顧客にフラット35の利用をしきりに勧めています。永瀬の同級生にも半ば強引にフラット35の利用を勧めていました。しかし永瀬は、同級生の夫が大手流通会社に勤めていることから、総合的に判断して金利の安い民間の住宅ローンの方を勧めます。
このシーンを見て、フラット35に対して何やら危険そうなイメージを持った方もいるかもしれません。実際、ドラマ内でもフラット35について、「不動産屋側のメリットは購入層の幅が広がり、多くの方に営業をかけられる」と注釈がつけられています。
確かに、フラット35は国の政策的な側面もあるため、フリーランスの方や勤続年数の短い方でも融資を受けやすいようになっており、民間金融機関から融資を受けられない、収入が安定していない方にも融資されるという点では、場合によっては危険と言えるかもしれません。
けれども、フラット35には、借り手の返済能力をしっかりと評価する厳格な審査プロセスがあります。加えて、全期間固定金利であるため、将来の金利上昇リスクを避けることができます。フラット35が一概にリスクの高いローンであるとは言えず、適切に活用すれば多くの家庭にとって有益な選択肢となることを理解してください。
もっとも、ドラマではフラット35を投資目的で利用する「裏技」が出てきますが、前述のとおり、フラット35は国の政策的な側面もあり、多くの方がマイホームを取得できるようにするものであるため、投資目的で利用することは認められていません。
ミネルヴァ不動産の神木が同級生の夫をだまし、「裏技」を使って投資目的の不動産を購入させる流れでしたが、フラット35を投資目的で利用することは不正行為のため、絶対にやってはいけません。
住宅業界ここは気をつけたい!
訪れた不動産会社が本当に信頼できる「正直不動産」なのかどうかは、資金計画を顧客に提案する際の態度に現れます。契約を急ぐあまり、あれこれ方向性を示さない方が成約に結びつきやすいと思っている不動産営業マンも多いのではないでしょか。仮にフラット35でしか融資を受けられないケースであっても、返済期間を20年以下にするのか35年にするのかで金利も異なりますし、総返済額も変わってきます。ミネルヴァ不動産はとにかくフラット35推しの一択でしたが、一般的にフラット35と呼ばれている住宅ローンの中には、フラット20などもあることを説明すべきでしょう。
また、どうしても超低金利の変動金利で借りたいという方には、例えば、今の勤続年数では民間金融機関の住宅ローンは難しく、フラット35だけが融資を受けられる可能性があることに加え、あと何年待てば、民間金融機関でも融資の対象になるといったことを説明すべきではないでしょうか。
そして、住宅業界でよくあることは、住宅ローンの返済の負担を軽く見せるためや、現在の賃貸での賃料よりも低く見せるために、初期の利息が低くなりやすい変動金利の返済計画でしか説明しないことです。
ただし、変動金利型のローンには利息が将来上昇するリスクがあります。金利上昇のリスクに関する説明があっても簡単に説明する程度であることも多く、顧客が初期の超低金利(ネット銀行であれば0.1%台)での返済額でよいと誤認してしまうことがあります。そのため、実際に金利が上昇してしまった場合、差額を払えなくなることも考えられます。
最悪な事態としては、住宅ローンを返済できず、マイホームを競売(裁判手続きでの強制的な売買)で失ってしまうことだってあるのです。
不動産屋さんから提案される資金計画の数が多ければ多いほどよいというわけではありませんが、それぞれの返済パターンによるメリット・デメリットを把握でき、最適な判断ができる材料を提示できる不動産屋さんこそ、「正直不動産」といえるでしょう。
文:みちば まなぶ(ファイナンシャルプランナー)
大学卒業後、大手ハウスメーカーや不動産業者などを経て、住宅ローンを切り口に、住宅購入をはじめとしたライフプランニングを提案する1級FP技能士。
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