都合の悪いことはなかったことにする人たち
――春というキャラクターをどう解釈して演じましたか?高良:僕がずっと考えていたことは、あの事件の後、晃と朔は20年もの間、なんで会いにきてくれなかったんだということです。会えなかった人たちを春がずっと思い続ける理由が欲しくて考えていました。
春はあの事件を境に何かが始まったと同時に、何かが終わったのではないかと。少年時代の事件で、彼の人生は180度変わってしまったと思ったんです。
――映画では前半は少年時代。後半は事件後、大人になった3人の物語。春は、表向きは事業をやっているけれど、裏では闇の仕事もしている。でも、それらしい強面な雰囲気はないですね。
高良:春は自分と同じ境遇の若者たちに仕事を与えていて、ある意味助けている。そういうやさしい一面がある男です。だから部下も彼を慕うようになります。
そもそも僕は、春をオラオラして演じたくはありませんでした。
この映画の人間たちの怖さは、そういう“分かりやすい怖さ”ではない。それぞれが抱えているさまざまな問題をなかったことにする人たちです。表向きは穏やかだけど、心の中では罪や悪を抹殺して生きている。そこが怖いんです。 ――なかったことにしても、パッと消えるわけはないですからね。
高良:なかったことにするという行為が、悲しいことに今の時代にマッチしてしまっていると思います。でも齊藤監督は、そうやって人が目を背けてきたもの、タブーとして語られなかったことを、そのままにしない人だと思いました。
小さい頃に大人に負わされた心の傷は、成長した後にも残りますし、それで人生が崩れてしまうこともあるんだということを齊藤監督は描いています。それはとても大切なことだと思うし、そこにこの映画の存在意義があると思います。
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