物語は古川さんが演じるヒロインが、祖父と祖母が暮らす家を訪ねるところから始まります。両親よりも先に祖父母の家に着いた彼女。久しぶりの再会を喜びますが、どこか違和感が拭えません。そのうち、祖父と祖母が妙な行動を取り始めるのです……。
まずは映画の裏側を語っていただきました。
ホラー映画初出演! 古川琴音さんにインタビュー
――『みなに幸あれ』は、これまでの日本のホラー映画とは違う、不気味さが映画全体を覆っているような作品で面白かったです。古川さんはホラー映画に初出演だそうですが、最初に依頼が来たときのことから教えてください。古川琴音さん(以下、古川):ホラー映画はよく見るし、好きなので、最初にお話をいただいたときは純粋にうれしかったです。脚本を読んだとき、今までにない感覚があり、見終わったあとに何かが残る作品だと思いました。ホラー映画の中でもかなり挑戦的な作品だと思ったので、出演を決めました。
――登場人物は全員、名前がなく、古川さんも主人公・孫、看護学生という設定のみ。どのように役を解釈したのでしょうか?
古川:役の背景や性格にフォーカスして突き詰めていくよりも、おばあちゃんたちが暮らすこの村が異質なので、そこが鍵になると思いました。おじいちゃん、おばあちゃん、幼なじみ、みんな奇妙だから、観客の皆さんが共感できるのは自分しかいない。普通の孫でいよう、普通の感覚を持っている人でいようと思いました。役作りはしないで、異質な状況に入っていった感じです。
ホラー映画は体力勝負!
――映画を見ている間ずっと背筋がゾワゾワしていました。撮影はいかがでしたか?古川:私の役は、逃げて、叫んで、怒って、泣いて……感情表現がどんどん激しくなる役なので、全ての表現に体力が必要でした。今まで撮影した作品の中でも一番疲れた映画です(笑)。
――体力勝負だったんですか。
古川:恐怖の表現は“反応”だと思うんです。私が叔母の部屋のカーテンを開けるシーンでは、本番前、カーテンの向こうに何があるのか知らされていなかったんです。「とりあえずそのカーテンを開けてください」と指示があったので、その通りにやったら、カーテンの向こうの“あるモノ”を理解するより先に、声が出たことに自分でも驚きました。
――思わず声が出ちゃったんですね。
古川:普通は、カーテンの中を見てから声を上げるという順序ですが、この映画では、カーテンを開けてから声を出すまでのタイムラグがまったくなかったんです。下津監督はいろいろと予想を超える工夫をしていらっしゃるんだなと思いました。
ロケ地で異世界の空間を感じた
――この映画はほぼロケ撮影だったんですよね。古川:福岡県田川郡のいろいろな場所で撮影しました。おばあちゃんの家はすごく立派な古民家で、その空間で撮影できたのは良かったです。歩いたときに木が軋む音がしたり、本物が持っている“何か”を感じたりすることができました。
あの村はヒロインにとって異世界なので、そういう意味でも、ロケ撮影によって、異世界を私自身も感じることができたと思います。
――撮影でリアルに恐ろしい体験はありましたか?
古川:おじいちゃん、おばあちゃん、両親役の皆さんが楽しんで演じていたので、撮影そのものは恐ろしい感じはなかったし、そういう体験もなかったです。
役の上では奇妙な人たちですが、演じる俳優さんたちは「こうすればもっと怖いかも」とか「こうした方がおもしろいんじゃない?」など、話し合いながら演じていました。
振付師さんに指導していただいたシーンもあったのですが、即興のお芝居もあり、おじいちゃんが「コッ!」と変な声を出すシーンなど、監督と俳優でいろんなアイデアを出し合って作り上げていったシーンもありました。
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