SNSでメッセージ、急に現れた姉が怖い
大学卒業後、ミユキさんは就職した。母はメンタルを病んで病院にかかっていたが、少しずつ立ち直っていった。「私は結婚が怖くなって、仕事ばかりしていました。でも32歳のときに信頼できる人に出会って、以来、ずっと事実婚で一緒に住んでいます。母も近所にいて行き来はあります。母と私の間で姉の話が出ることはありませんでした。もう探す気もなかった。姉はいないものと考えていました」
ところが昨年夏、突然、ミユキさんのもとにSNSを使って姉からメッセージが入った。「今、どこに住んでいるの? 元気だった?」と。まるで1週間前に会ったかのような軽い雰囲気にミユキさんは混乱した。
「姉ではない誰かがいたずらをしたのかと思いました。そのSNSに姉の投稿はほとんどなかったから。でも本名と出身地は合ってるんです。どうしたものかと思ったけど結局、反応できませんでした」
数カ月後、ミユキさんの勤務先に姉が現れた。受付に呼び出されてロビーに降りていくと、姉が立っていたのだ。
「姉はすっかり面変わりしていました。でもやはり姉だとわかった。『あんた、立派な会社に勤めてるのねえ』と姉は周りを見渡しながら言うんです。それが最初の挨拶なのかとちょっとムッとしました」
姉は言った、「1万円貸してくれない?」
彼女は姉を近所の喫茶店に誘い出した。向かい合って座ってみると、化粧気のない顔はどんよりくすんでいるし、着ているものもヨレヨレだ。「私がとっさに思ったのは、たかられたら困るということでした。冷たいと思われるだろうけど、もう姉に人生を引っかき回されたくなかった。それが本音です」
姉は、みんなどうしてるとも聞かなかった。しかたなくミユキさんが「あれからどうしてたの」と尋ねたが、姉は答えず「1万円貸してくれない?」と言った。やっぱりねとミユキさんは思ったという。
「人にお金を借りるつもりなら、それなりに自分の状況を説明する必要があるんじゃないの? あなたのせいでうちや叔父さんの家がどうなったかわかってるの? そう言ったら、姉はふらふらと喫茶店を出て行きました。このことは母にも言っていません。私の一存で姉を拒否していいかどうかわからなかったけど、私は本当にもう関わりたくない。彼女にかかわって今の安定した生活を潰されたくない」
それ以来、姉はミユキさんに連絡してこない。これでいいと思う半面、良心の呵責にさいなまれることもある。他人だったら関わらなくてもいいのに、きょうだいだと関わらなくてはいけないプレッシャーがある。だが、彼女が自分のメンタルや生活環境を守りたいと思うのも当然だ。身内との関係ほど難しいものはない。