若者を食い荒らした凶悪詐欺事件、なぜ被害は拡大したのか？（画像はイメージ）
繰り返される巨額マルチ事件
今回は、ドバイが拠点の企業「マーケットピーク」が扱う暗号資産投資の違法勧誘事件について振り返りたいと思います。この事件では、他人に暗号資産を紹介すれば成功報酬が得られるとして、20代の若者を中心に2000人以上から約7億円超を集めていました。
2023年5月、この事件に関与したとして男女9人が逮捕されましたが、その中にはリーダー格の男Aも含まれていました。注目すべきは、Aは2021年に摘発された「ジュビリーエース事件」にも深く関与していたことです。ジュビリーエース事件の想定被害総額は650億円、被害を苦に自殺に追い込まれた女性がいるなど、まさに空前の被害でした。
全く似たような案件を繰り返す冷酷さは、一般の人々には理解しがたいものがありますし、悪質極まりないと言うほかありません。
しかし、Aはなぜジュビリーエースの摘発後も犯罪をやめず、次のマーケットピーク事件にも手を染めたのでしょうか。その理由として、この種の事件の罪の軽さが挙げられるでしょう。
ジュビリーエース事件では、首謀者とされる男Bは裁判の結果、罰金300万円の執行猶予付き判決で済んでしまいました。何百億円と違法に稼いでおきながらたったの300万円です。詐欺師からすると、「本当に素晴らしいビジネス」と言えるでしょう。ローリスク・ハイリターンの仕事、まさに詐欺師が好む仕事です。
このような現状では、いつまでたっても同じような事件の連鎖が続くでしょう。国会議員の皆様におかれましては、このような悪徳マルチや投資詐欺事件の厳罰化を真剣に検討いただきたいと思います。
泣き寝入りしがちな若者の心理とは
では、なぜ両事件の被害はここまで拡大したのでしょうか。私はやはり、被害者の多くが若者であったというところがポイントだと考えています。詐欺師は、社会経験やリテラシーがまだ不足している若者を意図的に狙っています。多くの場合、友達を装い接近してくるのですが、実際にはお金を稼ぐためなら平気で友達を売るような人間です。
1万円や2万円程度の少額の被害に遭うのならまだ分かります。しかし、10万円や100万円といった大金の投資を勧められた場合、「おかしいのでないか」と疑ってほしいものです。間違っても、消費者金融から借金をしてまでお金を渡してはいけません。
被害者からすると「友達だから」「親友だから」と信じたい思いもあるかもしれません。しかし、友達だと思っていたのは被害者だけでしょう。詐欺師の側からすると、ただの「カモ」であり、内心は被害者を馬鹿にし、あるいは腹の底で笑っているかもしれません。そんな人間は絶対に友達とは呼べません。
ましてや、人を踏み台にして得たお金で豪華なパーティーを開き、その様子をSNSに投稿するような人間は本当にヤバいと思ってください。「友達だから許そう」などと思わず、遠慮なく声を上げてください。
できれば、被害に遭った後でなく、マルチ商法の投資案件に勧誘された時点で、弁護士事務所などに相談いただきたいと思います。場合によっては、メディアやYouTubeなどを通じて私から世間に注意喚起もできます。弁護士に相談しにくいのなら、まずは親に相談でもよいでしょう。
繰り返しになりますが、大人しく泣き寝入りするのだけは絶対に駄目です。勇気を出して声を上げていきましょう。詐欺師は手ごわい相手ですが、皆で力を合わせれば必ず摘発できます。「逃げ得を許さない」という姿勢で臨んでください。
（※本記事は、杉山雅浩弁護士が運営するYouTube番組「詐欺撲滅弁護士【杉山雅浩】」の内容を一部編集してお届けしています）
杉山 雅浩（すぎやま・まさひろ）
静岡県生まれ、東京都在住。上智大学法学部法律学科卒業後、弁護士法人V-spirits法律事務所代表弁護士を経て、東京、仙台に支店を持つ弁護士法人ワンピース法律事務所を開業。同社、代表役員弁護士として活躍中。得意分野は、離婚問題、残業代請求、相続問題、交通事故、企業法務、起業家支援など多岐にわたる。セナー事件、ジュビリーエース事件、OZプロジェクト事件等多くの有名投資詐欺事件の首謀者逮捕や被害金の回収に実績あり。詐欺撲滅YouTuberとして、活動中。詐欺に詳しい弁護士として、NHK、千葉テレビ、フジテレビ、日本テレビのスッキリ他、多数のメディアに出演。主な著書に「身近に潜む詐欺 あなたはもう騙されている」（みなみ出版）。
