子供の教育

「星の花が降るころに」「たずねびと」など今の子に寄り添う作品に注目。光村図書に聞く国語教科書の今

全国の小・中学校で国語の教科書シェア約6割の光村図書に、教科書連動コンテンツやユニバーサルデザインなど、最新の教科書についてお話を伺いました。

高橋 真生

執筆者:高橋 真生

子育て・教育ガイド

親世代とはどう違う? 光村図書に聞いた「今どきの国語教科書」

光村図書のなつかしい作品と再会できる教科書検索システム「教科書クロニクル」

日本人の2人に1人が使ってきた光村の教科書。なつかしい作品と再会できる教科書検索システム「教科書クロニクル」が話題。

教科書は原則として、文部科学大臣の検定、教育委員会等による採択を経て、児童・生徒に届けられます。しかし実際に作っているのは、民間の教科書発行者。学ぶ内容は、文部科学省が定めた学習指導要領に沿ったものになりますが、教科書の内容は、出版社がそれぞれ学習指導要領をどう具体的に教材化するかによって変わってきます。

今回は、全国の小・中学校で教科書のシェア約6割の光村図書出版株式会社、木塚崇さん(執行役員・広報部長)と山本智子さん(取締役・編集第一本部本部長・第一編集部長)に、親世代とは異なる「今」の教科書のさまざまな工夫や配慮についてお話を伺いました。

※「光村図書出版株式会社」は、以下「光村」と表記します。
 

「ことばの力と感性」を育む光村の教科書

日本人の2人に1人が使ってきた光村の教科書。では、その柱は何でしょうか。

それは、ことばの力と感性を育てること。子どもたちがよりよく生きるために、語彙力・表現力をつけ、ことばのバリエーションを増やしたり、思考力を高めたりしていくことが必要だと考えているそうです。

たとえば、友だち同士のやりとりのなかでつい手が出てしまう子は、もしかしたら、自分のなかに何かモヤっとした気持ちが生まれているにもかかわらず、言いたいことをうまく表現できないために身体が先に動いてしまうのかもしれません。自分の気持ちを「やばい」「うざい」などとしか表現できず、本当に伝えたいことが伝わらずにイライラしてしまうこともあるでしょう。

そんなふうに語彙は、人間関係や生きることに直結しているのです。

光村では、「世の中が変われば、今までのことばで表現できないものが増えていくのは当然」だと考え、流行っていることばを否定しません。ただ、子どもたちのなかに「やばい」「うざい」だけでは表現しきれない、複雑で繊細な感情が生まれることは必ずあるはず。それらをていねいにすくい取るために、「ことばを自分の中に貯めていくこと」「ことばでやりとりすること」を目指しているのだそう。

「『言葉の時代』は終わらない」というのは、光村の企業理念の冒頭の一文。そして行動指針である「みつむらコンパス」には、「子どもにとって何がよいかをいちばんに考えます」「どんなときも、次の世代に誇れる選択をします」「言葉を尽くして心を伝えます」などとあります。光村の思いがここにも表れています。

さて、今の子どもたちが使っている教科書は、一見昔とさほど変わらないようでも、さまざまな工夫がなされています。早速、小学校の国語の教科書を見ていきましょう。
 

1. 遊ぶ感覚で学べる充実した「QRコンテンツ」

国語には興味を持てないけれど、「QRコンテンツ」を見るのは好きという子なら、教科書で“遊ぶ”ことで親しみを感じられるかもしれません。

今の教科書も、教材の随所に付けられたQRコードを読み取ると、参考資料や動画を視聴することができますが、令和6年度版の教科書は、それがさらにパワーアップ! 統計資料、実際の話し合いの様子が見られるモデル動画、著作者のインタビュー動画、昔話・物語のアニメーションなど200点以上が用意されています(教科書連動QRコンテンツ「広がる学び 深まる学び」)。

また小学校6年生の教科書に掲載されている「やまなし」は、フジテレビとのコラボで「デジタル紙芝居」としても配信されています。
 

2. 誰にとってもわかりやすく使いやすい「ユニバーサルデザイン」

ユニバーサルデザインとは、年齢・性別・文化の違い、障害の有無によらず、誰にとってもわかりやすく、使いやすいようあらかじめデザインしておくという考え方や、そのデザインのこと。光村の教科書では、こんな工夫や配慮がなされています。

【フォント】
低学年のために、文字の形が認識しやすいよう光村で開発された「太教科書体」が使用されています。
 
光村太教科書体

書き文字と差が少なくわかりやすいフォントです。たとえば、「き」の三画目と四画目が、離れていますね!(小1下P4)

実際の書き文字と差異がないため、とめはねなどがわかりやすく、画数も捉えやすいのが特徴。教科書をお手本にして書くことの多い低学年の小さなストレスも軽減してくれるはずです。

単元名や見出しには、ユニバーサルデザインフォントを使用しています。

【色(カラーユニバーサルデザイン)】
どんな色覚特性の子どもでも、正確な情報を得られるよう配慮しています。たとえば、グラフなどを判別しやすいよう、使用する色の組み合わせを調整したり、形を変えたり、文字情報を加えたりしています。

【見やすさ・読みやすさ】
低学年用の教科書では、単語や文節の途中で改行していません。そうすることで、意味がつかみやすくなります。
わかち書き

小学校低学年は、文章にひらがなが多いので、読みやすいよう文節単位でわかち書きしています。さらに、単語や文節の途中で改行していないため、文章を読み慣れていない子でも、意味がわかりやすいのです(小1下P49)


さらに、登場人物名を記載した挿し絵があったり、初めてローマ字を書く段階では、どこに書くのかがわかりやすいように英語罫線(4線)に着色がしてあったりもします。
ローマ字の4線

ローマ字を書く4線のうち、基本となる線だけ青色になっています(小3上P125)


この見やすさ、わかりやすさが、子どもたちの理解を助けます。

【「みんなで考えたい大切なこと」動画集】
誰もが安心、安全に学校生活を送ることができるよう、2024年度からの教科書には「タブレットを使うときには」「防災」「SDGs」などの動画集が用意されています。

光村の教科書は、先述のユニバーサルデザインも含め、防災・人権など、全てのページについて専門家による校閲を行っているのですが、これらの動画も大変ていねいに作られています。教科書の裏表紙にあるQRコードから視聴できます。

特に注目したいのは、日本語指導が必要な子どもたちのための、多言語音声コンテンツ。学校生活で使用する頻度の高いフレーズが、6つの言語に翻訳されています。
多言語音声コンテンツ(光村)

「痛い」「トイレに行っていいですか」「遊ぼう」など、学校で必要なフレーズが6言語で聴けます

外国にルーツのある子どもたちも、一人ひとり状況は異なります。保護者として、地域の大人として、必要なときに、必要な支援ができるよう、こういったコンテンツがあるということも知っておきたいですね。
 

3. 現代の子が主人公の平和教材も。今の子どもたちに寄り添う作品

教科書には、「今」を描いた新しい作品も掲載されています。そこには、光村の「今の子どもたちの気持ちに寄り添う作品」「等身大の主人公が活躍する、子どもたちが一緒に成長できるような作品」を求める気持ちがありました。

たとえば、戦争を扱った定番教材には、あまんきみこ「ちいちゃんのかげおくり」(小3)、今西祐行「一つの花」(小4)などがありますが、主に戦時中を描いており、子どもたちが戦争を追体験するようなストーリーです。

一方、朽木祥「たずねびと」(小5)の主人公は、現代を生きる女の子。原爆供養塔納骨名簿のポスターで、自分と同じ名前を見つけた11歳の綾が、自分と同じ名前の少女を探しながら、原爆や戦争について学んでいくというお話で、教科書用に書き下ろした作品です。

今の40代が子どものころに使っていた生活用品が「昭和時代の道具」として図鑑に掲載されているのですから無理もありませんが、子どもたちは、戦争も歴史の一部、自分とは無関係の遠い過去の話として切り離してしまいがちです。

けれども、過去は今と、「わたし」は世界とつながっているもの。今なお、世界のいたるところで戦争が行われていることを考えても、「たずねびと」のように、子どもが戦争を自分の問題として感じられる教材は、とても大切です。

また、安東みきえ「星の花が降るころに」(中1)も、今の子どもたちのための書きおろしの作品です。小さな擦れ違いや誤解が重なり、親友と疎遠になってしまった女の子が、彼女とまた元のような関係になりたいと切望する姿を描いているのですが、女の子がある気付きを得た後、2人の関係がどうなるかわからないまま終わります。

この作品には、「読んで学ぶだけではなく、自分のこととして考えられるように」「予定調和のようなものではなく、続きを考えられる作品も入れたい」という光村の思いが込められています。内容も表現も、まさに中学生にぴったりで、「自分ならどう考えるのか、どう感じるのか」を想像しやすい作品なのですが、さらに「だからこそ」という配慮がありました。

実はこの作品は、元々はもっと刺激的なことばが多用されていたそうです。けれども、「今まさに、友人とトラブルのある子もいるかもしれない」「そういう子がこの作品を読むのが嫌にならないようにしたい」と、作者・安東さんと相談しながら文章を練り上げていったのだとか。

光村が「誰もつらい思いをしない作品であること」を、教材選びのときに大切にしているからこそのエピソードですね。
 

教科書で大人も学びをアップデート

ここまでで見たように、教科書は、時代に合わせて多くの変化を遂げています。教科書を見ると、そのときの子どもたちが何を学ぶべきだと考えられていたのか、何が必要とされていたのかがわかるでしょう。

現在の教科書の「進化」は、それを必要としている子どもたちのためのものです。そして、それらの支援は、本来教科書や学校だけでなく、社会全体に求められているもののはずです。

光村のコーポレートサイトにある「編集長が1分で語る!「国語」教科書のポイント」では、国語の教科書のポイントとして、「誰一人取り残さない学びのために」さまざまな工夫をしていますが、それは、SDGsで誓われている「誰一人取り残さない」とも重なります。

実は、デジタル教科書は、進化した紙の教科書よりも、特別支援教育に有効な機能がさらに充実しています。

けれども、デジタル教科書は、児童・生徒が必要としていても、学校や先生の判断で使用が認められなかったり、使用にあたっても、周りの子どもたちの理解が得られずつらい思いをしてしまったりすることがあります。

大人が教科書を通して気づいたことや知ったことが、家族で多様性について考えるきっかけになるかもしれない。それが、誰かを助ける第一歩になるかもしれない。

親として、祖父母として、大人として、「子ども」に何ができるのか―― 教科書は、大人の学びをアップデートできるものでもあるのです。

【参考】
・光村図書の教科書検索システム「教科書クロニクル
・光村図書 <体験版>デジタル教科書・教材
・文部科学省 小学校、中学校、高等学校 > 教科書 > 教科書Q&A
・文部科学省「都道府県が設置する教科書センター一覧」(令和5年6月現在)
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