生活残業だけじゃない……中高年社員のリアルな残業事情
人材コンサルが見た、中高年社員のリアルな残業事情
若手社員の残業は、仕事のためかお金のためか
基本的な残業の理由は、仕事が終わらないからだ。特に若手社員の場合は、担当者として仕事量が多いこともあるに違いない。まだ経験不足で時間がかかってしまっていることもあるのだろう。一方で、残業代を稼ぎたいから残業するという人もいる(「生活残業」と呼ばれる)。特に組織の序列の中で、まだ低い位置にある若手社員は給料水準が抑えめであるから、月給に〇〇円をプラスするためには〇〇時間残業しなければならない、毎月45時間近く残業しようというように、仕事をする前から計算している人もいるだろう。
中高年社員も若い時代に同じようなことをしていた人も多く、そうなればその残業時間が問題となる水準でない限り、一定の残業時間は不問、若手社員が残業代を給与の一部と考えることは黙認されることもある。
中高年社員の残業理由は、担当レベルの仕事をしているから?
一方で、中高年世代ともなると、ある程度給与水準も上がり、生活残業をしなくてもよくなっている場合が多い。また管理職として裁量労働制を適用され、残業代が出なくなっている人もいる。そうなると、定時になったらすぐに帰宅する人も少なくはない。実際夕方の午後6時前後には中高年社員で電車は混雑している。そんな中、残業を日々積み重ねている中高年世代も一定数いる。残業代が出ないのになぜ残業するのか、と合理的でワーク・ライフ・バランスを重視する現代の若手世代は不思議に思うかもしれない。
1つの理由には、中高年社員が管理職業務ではなく若手と同様の担当者レベルの実務をしているケースがあるだろう。組織によっては、若手社員が少ない職場もある。
会社における人材不足は、どちらかと言えば人材の流動化が大きい若手社員に起きやすい。若い世代の方が求人情報は多くて転職しやすいため、職場や仕事に不満があれば若手から先に辞めてしまうものだ。一方、中高年社員には求人情報が比較的少ないこと、そしてある程度給料が上がってしまっていること、また各種ローンや子育てなど、若い時代にはなかった責任を負っているなどのことから、転職によるリスクが取りにくい。
ゆえに、職場の問題で若手が辞めても中高年社員は残るという構造は起きやすく、すぐに若手の補強ができない会社の場合は、若手が抜けた穴の補填は中高年世代にのしかかる。
“安いニッポン”を象徴する残業理由も加わってきた?
もう1つ、昨今語られる“安いニッポン”という背景での残業もあるのが実態だ。物価高、上がらない給料問題、度重なる増税で可処分所得は下がる一方。ぜいたくしているつもりがなくても、それなりにお金が必要だ。共働き世帯も増えているが、本人たちのキャリアや自己実現だけが目的ではなく、2人で支えなければ成り立たない家計の問題も大きいだろう。
家に帰れば電気代、冷暖房代がかかるが、オフィスにいればその負担が減らせる。同僚や後輩を誘って飲みに行く金を捻出する余裕もない。
そんなわけで、差し迫った仕事もないが、会社に遅い時間まで居残っているという、切実でリアルなケースもあるようだ。
アジアの一部の発展途上国に行ってみると、クーラーの利いたデパートの中で、長時間涼みながら家族みんなでベンチに腰掛けて過ごし、全く買い物をする気配のない人たちが大勢集まっている光景がある。家にクーラーがない、もしくは冷房代を節約したい、との理由だ。
これと似たような理由で残業する日本人。こんな事情とは縁のない生活水準で暮らす人には信じられないだろう。日本では今、貧富の差も広がり、それに伴って思考や行動パターンにも大きな格差が広がっているともいえる。
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