給与と年金を含めたお金のやりくりについてアドバイスをお願いします
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、59歳、女性会社員の方。定年を来年に控え、老後資金の準備が可能かどうかで悩まれています。マンションのローンが75歳まで残り、それを踏まえてどうマネープランを組み立てるべきか、ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。老後のお金のやりくり、どうしたらいい?
スカイブルーさん(仮名)
女性/会社員/59歳
東京都/持ち家・マンション
■家族構成
1人暮らし
■相談内容
このたびは、お世話になります。
現在59歳ですが、諸事情により数年前から収入が激減し預金も大幅に減りました。家のローンの返済は75歳まであります。60歳定年まであと約1年となり、今後の生活を考えて不安が募っています。マネープランクリニックの専門家の方々のアドバイスを読むうちに、漠然とした不安を抱え後ろ向きの気持ちで過ごすよりも、アドバイスを受けて前向きな気持ちで歩んでゆきたいと考えるようになりました。
つきましては、給与と年金を含めたお金のやりくりについて、また、iDeCoの受け取りの年齢など、具体的なアドバイスをいただければ幸いです。
定年まであと約1年の予定ですが、退職金はありません。60歳以降もできるだけ長く働く予定ですが、現在の職場で再雇用だと給与が半減してしまうため転職する予定です。正社員でフルタイム、65歳までは現在の収入と同程度の収入が得られ、65歳からは1年更新の契約(給与額は変わらないが、昇給・賞与はなし)になる転職先を今から探しています。
また、預金が少ないのでローンの返済よりも手元のお金を少しでも増やしておいた方がよいと考えて貯金しておりますが、このままでよいでしょうか。一時は家を手放すことも考えましたが、住環境や住み心地が良いので暮らしやすく、日々を生きるモチベーションの維持にもなっているため、今後も住み続けたいと考えています。
年金は65歳からは約168万円、70歳からは約239万円の予定。仕事を継続しながら65歳から受け取りたいと考えています。金額的には70歳からの方がよいのですが、収入の不安があります。手取り額はそれぞれいくらぐらいになりますか。
特別支給の老齢厚生年金は64歳から約46万2000円の予定ですが、65歳まで正社員で働いている場合でも受け取れるのでしょうか。年金に関して注意する点はありますか。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)住居費と自宅マンションについて
毎月の住宅コストの内容は、住宅ローン返済7万6000円、管理費2万1000円、固定資産税の月割り1万円、火災保険の月割り1000円。
自宅マンションを購入したのは2007年。購入時は新築。
住宅ローンは以下のとおり
毎月の支払い:7万6000円
利息:固定/1.17500%
ローン残債:1120万円※完済予定75歳
(2)老後生活の楽しみについて
現在、楽しみとしては、月に数回、友人たちと集まって食事や会話を楽しむ程度のため、小遣いも趣味・娯楽費もさほどかからない。住環境はもっとも贅沢をしている部分とのこと。今後も他の支出は抑え気味にしながら過ごしたいと考えている。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 想定どおりの収入なら老後資金は十分に準備可能
アドバイス2 マネープランのポイントは65歳以降の収入
アドバイス3 65歳以降の収入が一定額以上なら年金の繰下げ受給を
アドバイス1 想定どおりの収入なら老後資金は十分に準備可能
来年定年を迎えられるのを機に転職を考えられているとのこと。条件としては、再雇用だと収入が半減するため、現在と同程度の年収を65歳まで得られ、さらに1年更新で延長できるというもの。まず、この転職が実現したケースで、試算をしてみます。
現在の家計収支は、データから毎月6万円は貯蓄ができそう。ボーナスからは50万円として、年間の貯蓄額は122万円。60歳の定年を1年後とすれば、そのときの金融資産は622万円(iDeCo口座の資産の増減は考慮せず)。
定年後に転職されて、生活費が変わらないなら収支も変わりません。結果、5年間で610万円、資産が増えます。これに、特別支給の老齢厚生年金を加えると、65歳のときの金融資産は1270万円ほどとなります。
特別支給の老齢厚生年金については、ご質問がありましたが、そのときの年収が想定されている範囲ならば受け取ることができます。
現行法では、在職老齢年金の基準について「年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が48万円を超える期間は年金の一部または全額が支給停止される」とあります。スカイブルーさんの現在の収入が、額面で420万~430万円と推測されますので、月割りで35万円前後。これに、受給される年金の基本月額を加算しても、48万円は超えないからです。
65歳以降は、何歳まで転職先で勤務されるかは不明ですが、想定されている給与(ボーナスなし)なら、貯蓄が可能です。
さらに65歳からは公的年金が支給されます。転職先でも厚生年金保険料を支払うことになれば、年金の支給予定額より増額となりますが、ここではデータでいただいた受給額で試算してみます。給与と合算で手取り月30万円台半ば。仮に35万円とすれば、年間で216万円の貯蓄が積み上がります。単純計算ですが、70歳まで働けば2350万円の老後資金を作れることになります。
70歳以降の収入を年金だけとすると、住宅ローンが完済となる75歳までは月3万~4万円の赤字。高めに設定して、5年間で240万円を老後資金から捻出します。しかし、75歳以降は、年金だけで生活費はカバーできますし、月によっては貯蓄もできるでしょう。結果、一般的な老後の予備費(医療・介護費用、住宅リフォーム・修繕費用など)を考慮しても、資金的には何ら問題はありません。おそらく、67歳くらいでリタイアされても大丈夫だと考えます。
アドバイス2 マネープランのポイントは65歳以降の収入
では、考えておくべき今後のリスクは何でしょうか。それは試算どおりの収入が得られるかどうか、という点です。想定した収入が得られない場合ですが、まず、60歳から5年間、給与は現在と同程度でも、ボーナス支給がないケース。計算上は、58万円×5年間=290万円を差し引くことになりますから、65歳の時点での金融資産は980万円となります。
次に、65~70歳までの収入ですが、もしも、給与の手取り額が生活費とほぼ同額の月17万円を得られれば、公的年金分がほぼ全額黒字になりますので、年間140万円は貯蓄できます。70歳まで働けば、老後資金は1680万円。70歳からリタイアされた場合、資金的に余裕はないかもしれませんが、大きく困ることもないでしょう。
では、何らかの事情(健康面も含めて)で、65歳以降の収入が月12万円であればどうでしょうか。5年間で先の試算より300万円の減収ですから、老後資金は1380万円。まだ住宅ローンも5年残っていますし、老後の予備費も考慮すると、老後資金においてリスクがないとは言い難いと思います。さらに、65歳からの収入が月8万円ならば540万円の減収となり、よりリスクは高まります。
収入については、65歳以降がとくにポイントになると考えます。60歳はまだ1年後ですので、ある程度想定できますが、6年後は健康面も含めて不確定要素が増えます。
スカイブルーさんの職種やキャリア等はわかりませんが、収入に関しては、不安に思う必要はないかもしれません。それでも、そういうリスクがあることは認識しておくといいでしょう。65歳からの5年間、年金以外の、働くことによる収入だけで収支でトントンとなるのが、ひとつの目安。それを継続的に割り込むようだと、アルバイトでいいので、70歳以降も働くことが必要になるかもしれません。
アドバイス3 65歳以降の収入が一定額以上なら年金の繰下げ受給を
他に、気になる点をいくつか。まず、65歳以降、少なくとも手取りで16万円程度の収入を得られるのならば、それが継続する期間まで公的年金は繰下げ受給をされるといいと思います。
年金の受給を繰り下げると、収支がトントンとなり貯蓄はできませんが、老後資金は取り崩すことなく一定額を維持できます。
スカイブルーさんは75歳まで住宅ローンの返済が続きますが、そこまで働き続けることができるかどうかは、かなり不確定と言えます。少しでも年金の受給額を増やすことは、そのリスクヘッジにつながります。仮に70歳まで繰下げをすれば、相談文に示されているとおり42%増(手取りで月17万円前後)となり、その分、リタイア後の家計収支にも余裕が生まれます。
iDeCoに関しては、継続的にされたらといいと思います。現行では65歳まで積立が可能です。その間、節税につながりますし、引き出しも75歳まで延ばせますので、結果的に長期の運用が可能となります。
もうひとつ、定年後の収入が想定どおり、またはそれに近い金額であれば、特別支給の老齢厚生年金については、貯蓄せず、ご自分で自由に使われてもいいと思います。将来の蓄えはもちろん必要ですが、一方で、元気に生活を楽しめる時間は限られます。老後資金に一定のめどが立てば、ご褒美として、使ってもいいのでは。
ともあれ、先に触れたように、今後の収入次第で、スカイブルーさんのマネープランは大きく変わります。それに応じて、働き方も変わっていきます。いつくかのパターンは試算で示しましたが、今後また悩まれることがあれば、再度ご相談いただければと思います。
相談者「スカイブルー」さんから寄せられた感想
私が日々不安に感じていたお金のやりくりについて、年齢や収入別に複数のパターンで具体例を挙げながら丁寧にお答えいただいたので、とてもイメージがしやすかったです。常日頃、どうしても悪い方にばかりに考えがちでしたが、その時々の収入に応じて考えればよいというアドバイスから、やや大げさかもしれませんが、行く先に一筋の光を見たような気持ちです。また、特別支給の老齢厚生年金は、老後資金に一定のめどが立てば、ご褒美として、使ってもいいのでは、というアドバイスに温かみを感じました。お心遣いに感謝いたします。今後のリスクも含めて、今回いただいたアドバイスを参考に、あまり無理をせず楽しみながら過ごしたいと考えております。相談に応じていただき、ありがとうございました。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武