借金返済後、タルタルソースを購入して「やっとここまで来れた」と思いました
自らの努力と工夫で数千万円の貯蓄を手にした方に、その極意を語っていただく「貯蓄の達人」。今回は、結婚時に夫の借金が600万円もあったという状態から貯金を増やした「こむぎ」さんに登場してもらいます。■基本データ
こむぎさん(仮名)
女性・29歳・東海・会社員
夫(35歳・会社員)、子ども2人(4歳、0歳)
借金に依存する家庭生活は美しくない
お金に関する格言は古今東西、多種多様なものが存在しますが、もし今回の達人=こむぎさんに捧げるとすれば、こちらではないでしょうか。「借金と金貸しに依存する家庭生活には、自由もなければ、美しさもありません」
「近代演劇の父」と称される、19世紀に活躍したノルウェーの劇作家で詩人のヘンリック・イプセンが、代表作『人形の家』の中で記した言葉です。
これを踏まえて、達人の家計収支を再度見てみましょう。
毎月の収支は17万4000円の黒字です。ボーナスからは60万円が貯蓄に回りますので、あくまで単純計算ではありますが、年間260万円の貯蓄ペースとなります。
まだ20代でありながら、4年弱で1000万円超を貯められる達人には、住宅ローンを抱えているにせよ、悲観するような借金はまったく見当たりません。しかし、ほんの数年前はまさにこの格言を痛感するような、そんな生活を送っていました。
結婚生活はネガティブスタート
結婚してダブルインカムとなれば、一般には貯蓄はグッと増え、いわゆる「貯めどき」となります。しかし、「私の場合はネガティブスタートでした」とこむぎさんは言います。その理由は、結婚直後にご主人から借金があることを告げられたから。その額、およそ600万円。それまで黙っていたことに怒りも感じましたが、現実から逃げるわけにはいきません。しかも、このとき、こむぎさんは第1子を宿していました。
そこでまず、出産するまでの1年弱で、何と400万円を返済します。当時の収入は今より多少多かったものの、住宅ローンの返済も含めて、生活費は15万~16万円。食費は月1万8000円に抑えていたとか。
出産前の返済もスゴイですが、その後、産休・育休に入り、さらに卓越した返済能力が発揮されます。
ご主人の残債200万円は、新たにローンを組み直し、金利を最小限に抑え、あわせて生活防衛費として現金=貯蓄を増やすことにシフトします。結果、半年で貯蓄額が100万円に達しますが、ここで予期せぬトラブルが……。
今度は自家用車が故障し、買い替えをすることに。自動車ローンの残債が120万円。これを一括返済することで、先の貯蓄は消滅しました。
さらに買い替え費用として新たに車両費140万円が発生。こちらはローンを組まざるを得ません。その後、こむぎさんも職場復帰し、結果的に2年でご主人の借金は完済。自動車ローンの支払いも終え、結婚5年後の2023年春には貯蓄額600万円を達成します。
「貯蓄の達人」は「返済の達人」
結婚当初の生活は「必要最低限のものしか買うことができない暮らし」だったそうです。通常の返済は無理なくできたはずなのに、なぜ、そこまでして最短の返済を目指したのでしょうか。「金利も怖いし、借金をしている罪悪感、嫌悪感から早く解放されたかったという思いもありましたね。それと、何より子どものため。将来、お金を理由に人生の選択肢を狭めたくありませんでした。なので、いち早く貯蓄できる家計に戻さないと、と考えたからです」
しかし、出産を控えた状況でよくそこまで頑張れた、と誰もが思うでしょう。実は、ご主人は結婚時に預金残高は10万円程度でしたが、こむぎさんには結婚前から貯めていた350万円がありました。この蓄え=へそくりが返済生活の精神的な支えになったと言います。
「最悪、借金返済がうまくいかず、家計が行き詰まっても、私の貯金があるという思いがありました。結局、それを取り崩さずに済んだことは、自信にもなりました」
ちなみに、この350万円について当時も今も、ご主人はその存在を知らないのだそうです。
自分なりの購入設定価格を調整する
今回は何だか「返済の達人」といった展開ですが、こういう方はおおむね貯蓄でも、その意識、才覚は高レベルということになっています。先取り貯蓄や無駄な支出はしないといったことは、当然、家計管理の大前提としています。と同時に、こむぎさんは、固定費の口座引き落とし以外は原則、キャッシュレス決済は使っていません。クレジットカードや電子マネーを使ってポイントを稼ぐことは、ある意味、お金を「賢く使う」ことにもなるでしょうが、あえてしないと言います。
「財布の中身を見て、現金が減ったこと、支出をしたことを実感することが、大事だと考えているからです。また、クレジットのように、その時点ではまだお金は減っていないのに買えてしまう、その罪悪感のようなものを感じずに済むからです」
最近の物価高にも適応します。普段の買い物で難しいのは、高くても買うべきか、買い控えるべきかという判断基準ですが、そもそも、こむぎさんには自分なりの購入設定価格を持っています。
それをこの物価高で、購入設定価格を見直しました。たとえば卵1パック150円だったのを230円に、という具合です。見直しには日頃利用するスーパーの価格に加え、利用しない店舗にも立ち寄り、実際の市場価格を確認する作業を行っているのだそうです。
ただし、貯蓄の達人ではあるものの、何でもかんでも節約するわけではありません。例えば、家族で旅行。工夫しつつも、必要な予算はしっかり確保し、使い切ります。
こむぎさんの楽しみのひとつは「旅行」の食事
大学のとき、何度も家計の見直しを経験
さて、「貯蓄の達人」と呼ばれる方々は、社会人になって突然スパっとそうなるケースもあるでしょうが、多くはそれ以前に達人となる兆候や素養を感じさせるエピソードがあるものです。こむぎさんの場合、小学校の頃、お小遣いをもらい始めたことをきっかけにお金の計算が好きになります。さらに、大学に進学した際、実家から通える距離でしたが、仕送りなしを条件に実家を出ます。
「1人暮らしをしたいという思いが強くありましたから。なので、高校生の頃から、生活費のやりくりについてイメージトレーニングをしていました。また、実際に大学では夏休みしかアルバイトができなかったため、貯蓄をしないと生活できない時期もあり、そのたびに家計を見直しました。そういった経験が今に活かされているかもしれません」
しかし、そんな達人でも、あの借金返済に追われた結婚当初は、お金について考えるのが嫌だったときがありました。「何もしないで家にいると、ついお金の計算をしているんです。もう、ホラーでしたね」と笑います。
同時にその経験で知ったこともあります。それは「生活の質を下げることのつらさ」でした。だからこそ、あの当時は買えなかったものが、今は買える。そこに喜びを実感します。具体的にはいろいろあるでしょうが、何かひとつと言えば?と質問してみました。
「そうですね、ものすごく小さい話になってしまうんですが、タルタルソースでしょうか。あの頃は基本的な調味料以外は購入NGでしたので。借金が返済できて、お店でチューブ入りのタルタルソースを買ったときは、ああここまで来たかと感慨もひとしおでした」
実は、ビールも一時解禁になったのですが、ご主人が転職して減収になったため、残念ながら、また購入可能リストから外されました。それでも「また、買えるよう頑張りたいです!」と明るく答えるところが、達人の達人たるゆえんなのだなと納得してしまうのです。
達人が実践している貯蓄のコツ
・生活費を引き出す口座と、必要なときまで一切取り崩さないと決めている口座を分ける・衝動買い、購入予定の消耗品以外のセールでの購入はしない
・基本的に食品は冷凍保存をし、お惣菜は買わない
なかなか貯蓄できない人への達人からのアドバイス
まずは身の丈に合った生活への見直しをおススメします。取材・文/清水京武