好きなことがあるのは悪くはないけど
家族間でなるべく隠し事はしたくないと考えていたメグミさんだが、「夫が地下アイドルにはまっている」という事実を、子どもたちには伝えることができなかった。「私自身、なんだかすごく嫌悪感に近いものを覚えました。地下アイドルが悪いわけじゃないですよ。そこに惹かれる夫のメンタリティが理解できない。同じ年頃の娘が家にいるわけですよ。それなのにどうしてアイドルに惹かれるのか。自分は男として、彼女たちを女として見ているわけでしょと言ったら、『そういうことじゃないんだよ。恋愛とか性的な目とか、それはまったくない』と言い張るんです」
夫の留守に、仕事部屋をこっそり覗いたことがある。チェキで撮ったらしい写真や、推しの彼女のグッズがたくさんあった。最近、あまり飲んで帰ってくる様子がないのは、こういうところにお金を遣っているからかと納得した。
「夫は以前、プロ野球のあるチームのファンで後援会にも入っていました。それと同じだよと本人は言うわけです。でも娘にバレたら、きっとドン引きするはずと言ったら、娘には知られたくないと。本人にも何か引け目があるんでしょう。そう言ったら『誤解されるのが嫌なだけ』と言っていましたが」
迷惑でも家計を圧迫するでもないが
だからといって夫が彼女たちを応援するのを止めることはできない。それがメグミさんのつらいところだ。「人に迷惑をかけているわけではないし、小遣いの範囲でやっているから家計に響くほど貢いでいるわけでもない。それはそうなんですが、何でしょうね、このモヤモヤした気持ちは。『どうしてそこ? 好きになるなら別の何かがあるんじゃないの?』と言いたくなる」
やってはいけないと思いながらも、夫の携帯をチェックしてみた。すると夫がアイドルを応援している姿を、仲間が撮ってくれたと思われる写真があった。舞台に向かってタオルやうちわを振りながら叫ぶ夫、踊る夫は家庭での彼と違って生き生きしていた。
「夫や父親という枠からはずれて、ひとりの『おじさん』として素でいられる場所なんでしょうね。理解はしようと思いました。感情的には共感できないけど」
メグミさんはそう言うと、苦々しい笑顔を見せた。