40歳になって、俳優業がより楽しくなってきた
――実際に俳優を職業にするようになって、現実とのギャップを感じることはありませんでしたか?桐谷:子どものころは、この世界は毎日冒険三昧、パーティー三昧の日々みたいなイメージがありましたが(笑)、そういう感覚もいつまでも持っておこうという気持ちもありますが、どちらかというと、何より自分自身の内側と向き合うようになっていきました。それが今も続いている感じです。俳優になれてうれしい、楽しいという気持ちもずっと続いていますね。 ――ずっと幸せな状態なんですね。
桐谷:もちろんとても苦しいときもありました。でも40歳を超えてから演じることがどんどん楽しくなっています。
20代、30代、それぞれの年代でしかできないことはありますし、そのときにしか感じられない感動もありました。
これまで、急ブレーキをかけて自分の心や行動を止めたりするつらさ、アクセルを踏んで前進していく気持ち良さ、両方経験してきましたが、今は自分の行きたい方向を感じて、力を抜いて委ねる気持ち良さがあります。キャリアを重ねて、余計な力が削ぎ落とされていったのかもしれません。
ターニングポイントはない。全作品が俳優の自分にとって必要
――役者をやってきて、桐谷さんにとってターニングポイントになった作品は?桐谷:よく聞かれるんですが、僕にとっては、どの作品も一つ欠けたら今はなかったなと本当に思うんです。階段を一段ずつ上がっていく感じですね。一段目があるから二段目に上れるわけで。それぞれの作品で出会いがあり、その出会いがまた次の作品につながっていく。そうやって上がって来たのかなと。すべての作品が、俳優の自分にとって必要だと思います。 ――出演作はすべてつながって、今があるんですね。
桐谷:そうですね。例えば、僕は高校生のときに友達にアメ村に行こうと誘われて、そこで「ヘアショーのモデルをやって」と美容師さんに声をかけてもらい、そのショーで出会った人に「役者をやるなら東京でしょ」と言われ、素直に東京の大学を受験しました。
で、その大学で仲良くなった先輩にクラブへ連れて行ってもらって、そこで芸能関係者に声をかけられ……というように、どれか一つでも欠けていたら今の僕はいなかったということばかりで。
だから、どれがターニングポイントとかではなく、全部特別ってことなんでしょうね。僕はすべての経験や出来事を「うれしいな」と思いながら生きられたらいいなと思います。
――では最後に映画『アナログ』を楽しみにしている読者に向けて、桐谷さんが演じた高木の見どころをアピールしていただきたいです。
桐谷:僕が演じた高木は、ちょっと口は悪い男ですけれど、友達思いでいいヤツです。
この映画はラブストーリーではありますが、友情のエピソードもこの映画の重要な柱になっていると思っています。高木と山下が悟を支えているところにも注目していただきたい。心にスーッと入ってくる爽やかな映画なので、ぜひ劇場で観てください!
撮影・取材・文:斎藤 香
ヘアメイク:石崎達也
スタイリスト:岡井雄介
桐谷健太(きりたに・けんた)さんのプロフィール
1980年2月4日生まれ。大阪府出身。2002年に俳優デビュー。映画『パッチギ!』(2004)に出演後、『GROW 愚郎』(2007)で映画初主演。ほか『クローズZERO』(2007)『黄金を抱いて翔べ』(2012)『彼らが本気で編むときは、』(2017)『火花』(2017)『ラーゲリより愛を込めて』(2022)『ミラクルシティコザ』(2022)。ドラマ『ROOKIES(ルーキーズ)』(2008/TBS)『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(2023/テレビ朝日)『インフォーマ』(2023/関西テレビ)。近作は映画『首』(2023年11月23日公開)。『アナログ』2023年10月6日(金)公開
デザイナーの水島悟(二宮和也)は、自分が内装をデザインした喫茶店「ピアノ」で美春みゆき(波瑠)と出会います。何気なく会話をし、意気投合した二人。悟は連絡先を交換しようとしますが、彼女は携帯を持っていないと言うのです。そして「毎週木曜日、この喫茶店で会いましょう」と約束をします。週一回のデートで心が通い合い、悟はプロポーズを決意。しかし、彼女は「ピアノ」に現れなくなり……。監督:タカハタ秀太
原作:ビートたけし『アナログ』(集英社文庫刊)
脚本:港岳彦
音楽:内澤崇仁
インスパイアソング:幾田りら『With』(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
出演:二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、藤原丈一郎(なにわ男子)、坂井真紀、筒井真理子、宮川大輔、佐津川愛美、鈴木浩介、板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー