ところが、2023年度共通テストの世界史や数学を実際に解いてみたところ、その長い問題文の多くは読み飛ばしても問題を解くことができて、「本当にこれが思考力を問うテストなのか」という疑問だけが残りました。今回は「数学IA」の問題を設問別に見てみましょう。
問題を解くのに必要のない“無駄に長い”リード文のオンパレード
【2023年度共通テスト数学IAの第2問[1](1)】 まず、第2問[1]は「太郎さんは、総務省が公表している~」という13行の説明で始まる問題です。(1)は、ヒストグラムから第1四分位数などを読み取ります。第1四分位数とは、データを小さい順に並べたとき、下から4分の1の位置にある数のことですから、「52都市」というデータ数さえ見つけることができれば、あとはグラフから求めるだけなので、説明文のほとんどは読まなくても解くことができます。【2023年度共通テスト数学IAの第2問[1](2)】 次に(2)(ii)「太郎さんは、地域Eと地域Wの~」から始まる4行の問題文の説明についてです。これも、「分散は」「偏差の(オ)」の部分だけを読み取れば、正解を求めることができます。この問題で問われていることは、「分散は偏差の2乗の和をnでわった値」という単純な“数学の知識”です。冷静になって問題文を読んでみると、太郎さんが考えたという問題設定自体が、正解を求めるのに全く必要ないことがわかります。
【2023年度共通テスト数学IAの第2問[1](3)】
さらに(3)の「太郎さんは、(2)で考えた~」から始まる9行の問題文も全く読む必要はありません。xとyの相関係数は、xyの共分散をxの標準偏差とyの標準偏差の積で割れば求められます。それぞれの数値は表1に書いてあるため、問題文を読まなくても解くことができるのです。つまり、これは単純に相関係数を求めるという“知識・技能”の問題で、「思考力」を問う問題でもなんでもありませんでした。
「バスケットボールシュートの問題」も大半は読み飛ばせる
最後に、共通テスト実施後に多くのメディアで取り上げられた第2問の[2]「太郎さんと花子さんは、バスケットボールの~」という問題です。こちらも「仮定」の部分を全て読まなくても、参考図と図1を見れば、正解を求めるのに必要なことは大体わかります。2023年度共通テスト数学IAの第2問「バスケットボールのシュート」の問題は、仮定の全文のうち「ボールが中点M(4, 3)を通る」以外は読む必要はなく、図から判断すれば解ける(※放物線を書きこんだ下の図、青枠は筆者による)
続いて、プロ選手と花子さんの「ボールが最も高くなるときの地上の位置」の比較の記述として正しいものを選ぶ問題があります。しかし、これも放物線の対称性を理解していれば、必然的に答えは「2. 花子さんの『ボールが最も高くなるときの地上の位置』の方が、つねにMのx座標に近い」とわかるため、問題文に設定されている放物線C2の方程式自体が不要です。
共通テストの思わぬ余波? 「高校の定期テスト」にまで変な問題が……
残念ながら、数学IAを解いてみると、全体的に問題設定を無駄に複雑にして受験生を惑わせているものが多く、思考力を問う問題とは言いがたいものが目立ちました。これを揶揄して、「数学というよりも国語の問題みたい」と言う人も少なくありません。またこのような共通テストの思わぬ余波なのか、筆者が知る範囲では、複数の高校の定期テストでも、このような無駄な問題文や対話文を読ませる問題を見かけるようになりました。例えば、ある高校の数学テストの「円と接線」についての出題では、生徒同士が解き方について話す会話文が10行ほど続いていたのですが、問題そのものはこの会話文を読まなくても解くことができるものでした。ひょっとして高校の先生は、共通テストの傾向を捉えて入れたのかもしれませんが、会話文を読んでも接線の求め方という数学的な知識・技能がないと解けない問題でした。
今後の共通テストでもこのような出題傾向が続くかどうかはわかりませんが、少なくとも平方完成や放物線の特徴、四分位数、相関係数の求め方といった、基礎的な知識や技能が必要であることには変わりありません。
また、もし2024年度もこのような出題形式だとしたら、問題冊子を開いた瞬間に「どの文章を読み飛ばせばよいか」という練習をする必要があります。いずれにせよ、「共通テストは思考力を問う問題だから」と焦らず、今まで通り知識・技能を重視した基本的な対策を行うことが大切だと思います。
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