親についての相談をしたら
「2年前、私の父が亡くなって母が田舎でひとり暮らしになったんです。その母も80代になり、昨年、転んで骨折をしたものの誰にも連絡できないままで、近所の人がようやく見つけてくれたということがありました。親が老いるのは当然のことかもしれないけど、これには衝撃を受けました。その後、骨折はよくなったけどひとりで生活させるのは心配でたまらない。だから夫に相談したんです。引き取るか、自宅近くの施設に入れるかしたい、と。すると夫は『オレの親はどうするの?』と言うんです」早口で一気にそう言ったルミさん(47歳)は、ふうっと大きなため息をついた。4歳年上の夫の両親はやはり遠くに住んでいるが、ふたりとも元気で農作業をしたり山登りをしたりしている。夫を亡くし、ひとり暮らしをしていたルミさんの母とは違い、近所に親戚も多く住んでおり、夫の妹一家も同じ敷地内で暮らしている。ルミさんはひとりっ子なのだ。
夫への気持ちが一気に離れた出来事
「条件が違い過ぎると言ったら、『親への思いは変わりない。きみの母親を引き取るなら、うちの両親も引き取らなくちゃ』って。まったく違う環境にいるのに、どうしてそうやって自分を引き合いにだすのか……。私の親は私の親、あなたの親とは分けて考えられないかなと言ったら、『同じだよ』って。全然話にならないんです」たまたま、先にルミさん側に親についての問題が出てきた。だからそれは対処しなければならない。いずれ夫の両親に何かあったら、そのときはそのときで一緒に考えよう。ルミさんは必死にそう言ったが、夫は「オレの親のことも考えてくれないと」と言うばかり。
結局、ルミさんは母の希望を聞いて、実家近くの施設に預けた。今年春からようやく面会できるようになったので、週に1度は訪ねている。交通費もかかるため、パート仕事を掛け持ちしている。夫は、母のことについてはいっさい触れなくなった。施設に入れたことも知らない。
「恨みましたよ。夫の親に先に問題が起こったとしたら、私はその時点で親が元気なら『うちの親はどうするの』とは言わない。夫の思考回路がまったくわからない。そんなにもともと公平を重んじるタイプではないし。ただ、うちの親が先に弱って、私がどうにかしたいと思っていることがうっとうしかったんでしょう。めんどうを持ち込まれたくないという感じでしたから。多少、強引なところはあるけど悪い人ではないと信じてきたのが、まったく当たってなかったと思い知らされた」
夫は何ごともなかったかのように暮らしているが、ルミさんの気持ちは一気に夫から離れた。表面上、今まで通りには生活しているが、心から笑えなくなったと彼女は言う。親への思いは人によって違う。そこをうまくくみ取って話し合えるのが夫婦ではないのだろうか。