車を故意に傷つけるなどして自動車保険金を不正に水増し請求していた問題で、中古車販売大手の「ビッグモーター」は2023年7月25日、記者会見を開きました。
「ゴルフを愛する人に対する冒涜(ぼうとく)ですよ」
会見で、一連の不正行為に対する経営陣の認識や関与を問われた兼重宏行前社長は、「今回の不正は板金部門が単独で行ったもので、経営陣は知らなかった」「本当に耳を疑った。もうこんなことまでやるんかと。愕然(がくぜん)としましたね」などとコメント。
そして、ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車を傷つけた従業員には、「本当に許し難いです」「ゴルフボールで傷つける、ゴルフを愛する人に対する冒涜(ぼうとく)ですよ」「これはいま事実関係を確認中ですけども、分かり次第、刑事告訴を含む厳正な対処をしたいと考えております」などと、器物損壊罪で告訴する考えを示しました。
ただし、会見の最後には「いま考えてみると、その責任も私にあるなということで、そのあたりは厳正に対処させてもらいますけども、そこまでする必要もないなと考えております」などと述べ、車を傷つけた従業員への刑事告訴に関する発言を訂正しています。
一般的に、「器物損壊罪」に問われた場合、どのような罰則があるのか、弁護士である筆者が解説します。
3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する
器物損壊罪とは、刑法第261条で「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」と規定されている犯罪です。まず、対象となる「物」は、建造物や艦船、文書等以外のほとんどの物が対象で、動物や植物も含まれています。
次に「損壊」の意味ですが、これは「その物の効用を害する行為」とされています。分かりやすく言うと“使えない状態にする行為”ということです。食器に放尿したケースや自動車のドアハンドルの内側に人糞を塗りつける行為は、いずれも器物損壊罪が成立するとされています。どちらのケースも物が壊れたわけではなく、洗浄すれば容易に使える状態に戻せますが、心理的にその物を使うことはできない状態にしたことで「損壊」にあたると判断されました。
このように器物損壊罪が成立するには、物理的に割る、壊すといった行為に限られない点はイメージと異なるかもしれません。
改めて、器物損壊罪は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」とされています。実際には、損壊した物の価値や原状回復の可否、賠償が済んでいるかどうか等を加味して刑罰を科したり、量刑を決めたりすることになります。
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