人間関係

「定年後」を楽しむ人と孤独感に耐える人。30代女性社長の会社に再就職した61歳男性の場合(2ページ目)

定年後に、新しい職場で新しい人間関係を構築し、趣味までみつけて生活を楽しむようになる人もいれば、たっぷりの退職金をもらい、嘱託社員として元の会社で働くも自分の殻に閉じこもり、時間ばかりができて、ただただ暮らしがさみしくなっていく人もいる。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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口調は穏やかだが……「勘違い初老男性」の言い分

一方、同じように2年前に定年になったフミヤさん(62歳)は、嘱託として週3回、退職前の会社に通っているが、どうもすっきりしない生活を送っているようだ。有名企業だから、おそらく退職金もそれなりに受け取ったはずなので、経済的な問題を抱えているわけではなさそうだ。

「週休4日なんですよね、今。趣味もないまま仕事人間として突っ走ってきて、急に暇になっても何をしたらいいかわからないんです。共働きだったので4歳下の妻は今も会社員として働いています。『暇なら食事の用意くらいしておいてよ』と言われますが、営業部長としてあちこち飛び回っていた僕が、どうして狭いキッチンで妻のために料理をしなければいけないのかわからない」

口調は穏やかだが、かなりの「勘違い初老男性」である。前出のシュウジさんと比べるのは失礼ではあるが、自分のことを自分でやるようになった人と、変わらず妻に頼り、家事すらできない人とでは、生き生き度合いがまったく違う。フミヤさんの表情は乏しい。

「友だちがいないんですよ。学生時代の友人たちは50代のころ再会してまた集まっているようですが、僕は忙しくてまったく行けなかった。定年直後に1回、顔を出してみたものの、なんとなく馴染めなくて。そういえば昔から友だちは少なかった」

仕事ならいいが「素の自分」は案外つらい

無意識かもしれないが、彼は周りの人間たちを下に見ているのではないか。友だちは多ければいいというものでもないので、気の合う人と会えばいいのだが、彼自身、あまり友だちを求めてはいないのかもしれない。だからといって、ひとりでどこかへ出かけて楽しむのも気が引けてしまうようだ。

「仕事だったらいくらでも愛想をふりまけるんですが、素の自分で生きていかなければならないのは案外つらいなと思っています」

地域の活動とかサークルとか、今はいくらでも参加できる場所はある。彼の妻は働きながら、どんどん仲間を作っていっているという。フミヤさんはそれができない。

「結局、家の中でぼーっとしてテレビを見たりしています。定年になったら、今まで読めなかった本を読もうと思っていたけど、集中力がもたない。外に出ても行く当てもないから、結局、パチンコをするくらい。生産性がないですよね」

生産性などなくてもいいのではないだろうか。ただ、自分が楽しいと思える場所を見つけられたら、そこから何かが広がっていくかもしれない。

さみしいのに人とうまくつきあえないのだろうか。肩書きがないと人との距離感がはかれないのだろうか。

「よく趣味をもてというけど、今から何かやっても上手になれるわけでもない。老いの、その先が見えない不安感が大きいんですよ」

“老いのその先”といういい方がひっかかる。認知症になることなのか、寝たきりになることなのか。今健康であれば、そこまでみすえることはなかなかできない。それを考えて何になるのか。

「考えてみたら、人生を楽しむ、日々を楽しむという発想がないんですよ、自分の中に。趣味も、忌憚(きたん)なく話せる友だちもいない社会人生活だった。過去を見ても先を見ても、なんとなく落ち込むばかりで……」

気弱な笑顔を浮かべたフミヤさんだが、人生でいちばん若いのは「今日」ではある。
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