「危険ドラッグ」(脱法ハーブ)が引き起こした事件・事故
危険ドラッグの影響で起こった出来事
当時は「脱法ハーブ」と呼ばれていましたが、2012~2014年ごろに危険ドラッグの使用が原因で起こった数々の事件や事故を、みなさんは覚えていますでしょうか?
2012年10月10日、愛知県春日井市で、危険ドラッグを吸引して乗用車を運転した男が、自転車で横断歩道を渡っていた女子高生をはねて死亡させるという、痛ましい事件が起きました。
2012年10月23日には、東京・練馬区の小学校に危険ドラッグを吸った男が上半身裸で侵入して児童約40人を追いかけまわし、女子児童一人にけがをさせました。
2014年6月24日には、東京・池袋駅近くで危険ドラッグを吸った男が乗用車を暴走させ、7人が死傷するという事件が起きました。事件後の様子を伝えるテレビニュースの画面には、口からよだれを垂らした犯人の顔が大きく映し出され、その異常ぶりが多くの人の脳裏に焼き付いたにちがいありません。
2014年9月には、札幌市内で店舗で危険ドラッグ製品「ハートショット」を購入・吸引した12人が交通事故を起こしたり、次々と心肺停止になって救急搬送されたりする事件が相次ぎました。
2014年12月3日には、東京・世田谷区のマンションで、危険ドラッグを吸った31歳の男が、隣人女性を切りつけるという事件が起きました。逮捕後の取り調べで「しぇしぇしぇのしぇー」と奇声を発したと伝えられ、さらに送検時には、カメラを向けた報道陣に対してピースサインをしながら笑っている映像がテレビニュースで流されました。
これらは、危険ドラッグ関係で起きた事件のごく一部です。当時は毎日のように報道されていましたが、いつの間にか耳にすることが少なくなり、現在では危険ドラッグ問題などなかったかのようです。しかし、実は、もっと身近なところで、得体の知れない危険ドラッグが流通しており、現在も引き続き警戒が必要なことに依然変わりありません。
普通の暮らしに忍び寄る危険ドラッグ……お土産のチョコに大麻が入っていたケースも
2019年3月には、東京都荒川区で行われた社交ダンス同好会のイベントで、50~80歳代の男女7人が体調不良で病院に緊急搬送され、尿から大麻関連成分が検出されたと報道されました。7人はこのイベントで同じチョコレート菓子を食べていたので、このお菓子が原因と考えられました。現在、一部の海外では、大麻の嗜好目的の使用が認められている国や地域があり、海外旅行のお土産として買ってきたチョコレート菓子に大麻が入っているのを知らずに食べてしまったようです。2022年12月には、神戸市の民家で開かれたイベントに参加した40歳代の女性が体調不良を訴え、病院に搬送されました。尿から検出されたのは大麻成分ですが、女性は大麻を使用した覚えはなく、「参加者に配られた緑色のお菓子を食べた」ようです。その後の調べで、このイベントは、「運気を上げる」という触れ込みで占い師の女性が開催したもので、知人の女性から大麻入りクッキーと知りながら譲り受けたものを参加者に配ったようです。
また、2022~2023年にかけては、大麻成分の一つでありながらまだ法律で規制されていなかった「THCH」という化合物を含んだ商品がインターネットの通販サイトで売られ、それを購入して利用した人が救急搬送されるという事例が少なくとも4件あったと伝えられています。このうち、40代のある女性は、THCHを含むカプセルを購入して飲んだところ、上半身と顔のしびれと激しいめまいを感じて救急搬送され、2日間意識不明となりました。20代のある女性は、リラックス効果をうたったTHCHを含むグミを購入して食べたところ、気分が悪くなるとともに幻覚を訴えて、救急搬送されました。THCHは2023年8月に指定薬物となり、法律の規制対象とされましたが、今なお類似の商品がネット上で取引されている実態があるようです。
厳密に言えば、大麻と危険ドラッグは違うものですが、普通に暮らしている人が危険にさらされる可能性があるということをこれらのニュースは物語っています。
2019年7月には、「ハーブティー」を飲んだ18歳の大学生2人が、意識を失うなどして緊急搬送されました。そのハーブティーの説明書には、「DMTが含まれています」「DMTは麻薬です」と記されていたものの、合法だとも説明されていたそうです。ちなみに、DMTは、ジメチルトリプタミンという化合物の略称で、もともといくつかの植物に含まれ、幻覚作用があることが知られています。合成されたDMTという化合物そのものは 「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されている麻薬に相当し、その所持や使用は違法となりますが、DMTを含む植物は規制対象外です。
なお、このハーブティーは、個包装された紅茶のティーバッグのような見かけで、2020年の2月だけでも全国の約80人に発送されていたそうです。得体の知れない薬物成分が、一般家庭にも配られている可能性があると考えると恐ろしいです。
危険ドラッグに興味がなくても要注意! 「自分には関係ない」が一番危険
「危険ドラッグ」は、過去のブームで終わったわけではありません。目に見えない形で今も流通していて、知らないところで私たちの身近なところに迫っているのです。「ドラッグに興味もないし、見たこともないので自分は関係ない」と思ったら、大間違いです。もしあなたがそう考えているなら、いつかその罠にかかってしまう危険性を秘めています。また、危険ドラッグ問題は、当事者だけではなく、みんなが正しく理解して取り組むべき課題です。無関心であることは、犯罪を野放しにすることであり、罪だと私は思います。