依存症

オキシコンチンとは…鎮痛剤がアメリカの深刻なオピオイド危機を招いた背景

【薬物依存症の専門家が解説】オキシコンチンとは、オキシコドンを主成分とする鎮痛薬で、効果が長時間続く「徐放剤」です。モルヒネとの違いはほぼなく、現在のアメリカの深刻なオピオイド危機を招いた薬とも言えます。大手製薬会社が経営破綻し、関与した医療者は訴追される問題となるほど、被害が拡大した経緯をご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

オキシコンチンとは……オピオイド危機をまねいた鎮痛薬

オキシコドン

オキシコドンを主成分とするオキシコンチン。深刻なオピオイド危機につながった背景は?


1日250人以上が死亡…コロナ禍でも増加したアメリカ薬物問題の現状」と「アメリカで年間9万人以上が死亡…オピオイド危機とは何か」で紹介したように、いまアメリカは、オピオイド系鎮痛薬の過剰摂取によって「オピオイド危機」に見舞われています。

以前からアメリカでは、大麻やコカインを中心とする別の薬物乱用がすでに起きていました。何らかの規制薬物を一度でも使用したことがあるアメリカ人の割合(生涯経験率)は30~40%というデータもあります。しかし、1990年代になって様相が変わり、オピオイド系鎮痛薬の過剰摂取による死亡者数が急激に増加し始め、かつて経験したことのない史上最悪の状況となったのです。

そして、その中心にあったのが、「オキシコンチン」という商品名の鎮痛剤です。オキシコンチンは、オキシコドンという半合成のオピオイド系鎮痛薬を主成分として含み、ゆっくりと薬が溶け出すことで持続的に効くように工夫して作られた「徐放剤」です。

オキシコドンとはどんな薬なのか、オキシコンチンという製品にはどんな特徴があるのか、どうしてオピオイド危機をまねく原因となってしまったのかを詳しく解説します。
 

オキシコドンとは……オキシコンチンの主成分。モルヒネとの違いは?

オキシコドンの歴史は比較的古く、アヘンから単離されたオピオイドアルカロイドの一つテバインを原料として、1916年ドイツの化学者によって合成されました。そしてドイツでは、1917年から痛み止めとして臨床使用が開始され、その後ヨーロッパでは広く使用されるようになりました。

オキシコドンは、モルヒネと多少の差はあるものの、ほぼ同等と考えて差し支えありません。脳内にあるオピオイド受容体という分子に作用して、強い鎮痛効果を発揮します。日本では、1955年の第2改正国民医薬品集に収載され、注射薬として導入されましたが、あまり普及しませんでした。世界的にも、オキシコドンは、鎮痛薬としてメジャーではありませんでした。

ところが、オキシコドンの徐放剤である「オキシコンチン」が開発され、アメリカで1995年に承認そして1996年に発売されてから、急速に使用が増えました。。2003年には 日本でも発売され、モルヒネやフェンタニルと並び、末期がんに伴う持続的な激しい痛みに苦しむ患者を救うのに欠かせない医薬品となっています。

適正に使用すれば役立つはずの薬が、アメリカでは史上最悪の薬物汚染を招いた「主犯」と目されるようになってしまったのは、なぜでしょうか。
 

オキシコンチンの依存症がアメリカで増加したのはなぜか

オキシコンチンは、日本では、主にがん性疼痛に対してしか用いられないため、みなさんが日常的な痛みを訴えて一般の病院に行ったとしても処方されることはめったにありません。しかし、アメリカでは、がんなどの特定の病気にかかっていなくても、近くのクリニックで痛み止めとしてもらうことができます。そして1999年ごろから、オキシコンチンが大量に使用されるようになり、依存症に陥る人が相次いだのです。

この異常事態を引き起こしたのは、アメリカの医薬業界ではないかという疑惑も現在持ち上がっています。信じがたいことですが、本来人々の健康に貢献することを目標としているはずの製薬企業ならびに医師・薬剤師などの医療従事者が、必要以上にオキシコンチンを使用してしまったというのです。

アメリカには日本のような国民皆保険制度がなく、4000万人以上が無保険者です。また、日本では薬の値段(薬価)を国が定めているのでどの病院や薬局に行っても支払う金額は同じですが、米国では定価がなく、いわゆる「オープン価格」で売買され、高騰しがちです。したがって、無保険で低所得の人々には、高価なオピオイド系鎮痛薬にはあまり縁がありません。そこで、オキシコンチンを販売するパーデュー・ファーマ社は、公的保険の対象者が多く住むエリアを狙い、営業戦略を打ち立てました。とくに、ボストンとワシントンを結ぶ一帯から西方にウィスコンシン州東部までの「ラストベルト(Rust Belt、「錆びた地帯」という意味)」と呼ばれる地域には、かつての鉄鋼や自動車、炭鉱などの産業に関わる労働組合がしっかりしていたため、公的保険の加入者が多く、肉体労働で膝や腰を痛めて鎮痛剤を必要とする人も多いだろう-そう考えたパーデュー・ファーマ社は、このエリアの医師にどんどん接待等を行いました。そして、日常的な痛みに対しても、患者の求めに応じ、オキシコンチンを積極的に使うよう誘ったのです。

しかし、がん性疼痛を抱えた患者を除き、オピオイドの使用を繰り返すと身体的依存が形成されてしまい、一度依存症に陥ると、そこから脱却することは至難です。当然のように、ラストベルトを中心にアメリカでは、オピオイドの処方を求め続ける人々がどんどん増えていったのです。そして、パーデュー・ファーマ社の思惑通り、オキシコンチンは爆発的に売り上げを伸ばしたというわけです。

若年層への拡大と被害も深刻でした。アメリカでは学校で行われるスポーツも保険対象となるため、運動中に怪我をした学生が病院に行ったときに、痛み止めとしてオキシコンチンが処方されることもありました。病院に通ううち、その処方量が増えたことがきっかけで、依存症になってしまった青少年も少なくないそうです。また、大勢の生徒や学生が訪れる学校の指定医は、予め多くのオキシコンチンを買うため、使いきれない薬が余ることがあり、それをこっそり入手した学生たちがパーティで乱用したという事例もありました。依存になる前に、オピオイドの過剰投与による急性中毒として呼吸麻痺を生じて死亡した若者も少なくないそうです。
 

長時間効果が続く「徐放剤」であったことも、被害拡大に影響

オキシコンチンが「徐放剤」であることも、被害拡大に影響しました。

「徐放剤」とは、薬物の放出を遅らせるために高分子化合物でできた皮膜で薬物を覆うなどの製剤学的な工夫が施された薬剤で、少ない服用回数で長時間効果が続くというメリットがあります。ただし、長時間放出し続けるために、錠剤の内部には、従来の製剤よりも多くの薬物が充填されています。つまり、普通の錠剤1錠よりも、徐放剤1錠でたくさんの薬が入手できるというわけです。

それを知ってか、徐放剤を砕いて鼻から吸ったり、蒸留水に溶かして自分で注射したりする人が出てきたのです。また、そのノウハウを他人に指南したり、専用の器具が出回るようになりました。正しく使えば「ゆっくりと少しずつ長く効く」はずの薬剤が、「一度に大量に使うことができる」薬剤として扱われるようになってしまったのです。
 

アメリカ司法相による医療者の訴追も……処方薬と、問われる医療人の倫理

たとえ製薬会社からのブランド戦略による依頼があったとしても、直接患者に薬を提供する医師らが適切に対応していれば、こんなことにはならなかったに違いありません。

2019年4月17日、アメリカ司法省は、オピオイドや危険な麻薬成分を含む薬を違法な処方箋により流布させたとして、31人の医師、7人の薬剤師、8人の看護師を含む60人を訴追したと発表しました。訴追されたケースに含まれる処方箋は35万件、医薬品3200万錠にのぼりました。

報道によると、ケンタッキー州では、医師が予め署名した空欄の処方箋を事務所職員に渡して流出させたり、フェイスブック上の友人たちに処方箋を書いたりしていたそうです。アラバマ州では、中毒状態に陥っている患者に対し、医師が大量のオピオイドを処方し、1回につき50ドル、もしくは年600ドルの料金を取っていたそうです。

本来患者を救うはずの医師・薬剤師などが、悪事に加担していたとは情けない限りです。
 

製薬会社への判決と経営破綻……戻らない犠牲者・続くオピオイド危機

2007年、パーデュー・ファーマ社が誤解を招くようなブランド戦略を行ったとして、6億ドルの罰金が科されました。また、パーデュー社ならびにそのオーナーである資産家のサックラー一族に対しては、アメリカにおけるオピオイドの蔓延に拍車をかけたとして2000件以上の訴訟が提起されました。その和解には、100億ドル余りが必要と伝えられ、同社はその解決を図るため、2019年にニューヨーク州の破産裁判所に会社更生手続きを申請し、事実上経営破綻しました。2020年10月には、パーデュー社がアメリカ司法省相手に計83億ドルの和解案に合意し、有罪を認めると発表しました。
 
その後もアメリカでは「オピオイド危機」が続いています。不正を働いた人がいくら罪を認めて謝っても、犠牲になった人たちの命は戻りませんし、何百万人という人々が依存症に苦しみ続けています。
 
悪いのは薬ではありません。金儲けに目がくらんだ愚かな人間が、自らを滅ぼす結果を招いていることを多くの人が学ぶべきです。
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