依存症

「大麻は依存性が低い」は本当?薬物依存の正しい知識

【薬学博士・麻薬研究者が解説】「健康に悪いけれどやめられない」ものはたくさんありますが、麻薬や覚せい剤などは特別に法律で規制されています。「大麻(マリファナ)は依存性が低い」という声も聞きますが、作用の複雑さを知れば、考えが変わるはずです。個々人の心理状態でも変わる薬物への依存性について解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

薬物依存症で起こる「精神的依存」と「身体的依存」

大麻の依存性は低いのか

大麻は依存性が低い? その考え方は危険です


健康を害するものは世にたくさんあります。普段私たちが口にしている食べ物や飲み物でも、取り方によっては健康を害する可能性がないとはいえません。少しでも有害なものを規制するなら、多くのものが食べたり飲んだりできなくなってしまいます。

しかし実際には規制されている食品などは少なく、特別に規制されているのは麻薬や覚醒剤などです。これらを規制しなくてはならないのは、単に毒性があるばかりでなく、自ら苦しい思いをしてその有害性に気づきやめようと思っても、どうしてもやめられないという悪循環に陥るからです。どんなに意志の強い人でも、一度はまってしまうと自力では決してやめられないといっても過言ではありません。
 
乱用されやすい薬物に共通しているのは、脳に働きかけ、異常な精神状態をまねく作用をもつことです。薬物の摂取を繰り返した結果、その薬物を求める抑えがたい欲求が生じ、摂取していないと不快な症状が起こるようになった状態を「薬物依存症」といいます。
 
薬物依存は、大きく「精神的依存」と「身体的依存」に分けられます。
 
■薬物への精神的依存
精神的依存が形成されると、薬物を使用したいという精神的な欲求をコントロールできなくなり、薬物がきれると激しい不安に襲われ、居ても立っても居られなくなります。

■薬物への身体的依存
身体的依存では、薬物がきれると、手足のふるえ、吐き気、意識障害などの身体的な「禁断症状」が現れます。禁断症状は、正式な学術用語としては「離脱症状」あるいは「離脱症候群」と呼ばれるものですが、これらの症状を抑えるためには再び薬物を使用するしかなく、常に薬物がないとまともにいられないという薬漬けの状態から逃れられなくなってしまうのです。
 

大麻(マリファナ)は依存性が低い? マリファナにもある依存性  

マリファナ(※本記事では、薬物としての「大麻」を以下「マリファナ」と称します。理由は「違法なマリファナだけではない「大麻」の意味」をご参照ください)も、連用すると依存が形成されます。これは様々な動物実験でも、確認されていることです(J Clin Pharmacol 42(11 Suppl): 20S-27S, 2002; Psychopharmacology (Berl) 169(2): 115-134, 2003)。
 
使用する量や頻度によって変わるので、一概には言えませんが、マリファナに対する依存は精神的依存が中心で、身体的依存は起こりにくいという報告もあります(Curr Opin Psychiatry 19(3): 233-238, 2006; Subst Abuse Rehabil 8: 9-27, 2017)。また、他の乱用薬物に比べると、依存性は少ないという意見もあります。しかし、マリファナに対する依存に関しては、留意しなければならない点が3つあり、「依存性が少ない」という見解は改めるべきと思われます。
 

マリファナの作用は複雑……「依存性が低い」と考えるのは危険

第一に、マリファナには、相反する薬理作用が混在しており、症状にも個人差がある点には注意して考えなければなりません。

一般に、ある薬物に対して依存が形成されたとき、断薬後に離脱症状として現れるのは、その薬物の単回投与で観察される薬理作用とは、真逆の変化です。たとえば、モルヒネという薬は、麻薬の一種で、がんに伴う激しい痛みをやわらげるのに用いられますが、副作用として「便秘」を起こします。麻薬ですから、長期間繰り返し使用すると、言うまでもなく依存が形成されますが、依存が形成されてから断薬すると、逆に「下痢」が生じます。これは、繰り返し投与しているうちに、薬の作用として起こる便秘を解消しようとして、逆に下痢を起こしやすいような体質に変わっていくからです。

マリファナは、中枢神経系に対して、興奮的にも抑制的にも作用し、現れてくる症状も複雑です。依存形成後の離脱症状として、興奮作用が抑制作用に、抑制作用が興奮作用に転じたとしても、それらが相殺されて、見かけ上ははっきりとしない症状しか見られないのかもしれません。
 

精神的依存は個人の嗜好や心理状態に左右される

第二に、「精神的依存」は、「身体的依存」ほど深刻でないととらえる向きがあるようですが、これは必ずしも正しくありません。

肉体的なつくりや働きはだいたいみんな同じです。病気などにならない限り、基本的には体のしくみはみんな変わりません。よって、身体的依存があるとされる薬物を連用すると、ほぼ確実に身体的依存が形成されますし、ないとされる薬物なら、ほぼ起きることはないでしょう。

ところが、精神的依存は、その人の嗜好や使用時の心理状態によって、大きく左右されます。たとえば、コーヒーが好きな人は、飲めば飲むほど、また飲みたいという欲求が沸いてくるでしょうが、もともとコーヒーが嫌いな人は、無理やり飲まされても、どんどん嫌いになる一方でしょう。つまり、精神的依存が起こる程度は、薬物によって決まっているというより、その人がどのくらい薬物を欲しているかによって決まると言ってよいのです。したがって、動物実験などの結果から「マリファナは、あまり強い精神的依存を生じない」と言われていても、鵜呑みにしてはいけません。もともとマリファナに特別な感情や強い欲求をもった人が使用した場合には、強い精神的依存が形成されやすいことを知っておくべきです。
 

マリファナはやめた後も成分が長期間体内に残る

第三に、マリファナの主たる薬効成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の体内残存期間が非常に長いという点には注意が必要です。

血液中では大部分のTHCが血漿タンパク質に結合した形で存在するうえ、組織へ移行したTHCは、徐々に全身の脂肪組織に浸み込み、なかなか体外に出ていきません。事実、マリファナを1回喫煙しただけでも、4週間後に脂肪組織中に相当量のTHCが残存していたというデータが報告されています(Biomed Chromatogr 3(1): 35-38, 1989)。一般に、身体的依存の程度を推定するには、薬物の使用を中止したときに現れる「離脱症状」を目安としますが、マリファナの場合は、使用を中止しても、いつまでもTHCが体内に残っているので、実質的には「薬物がきれた」ことにはなっていないのです。きれてもいないのだから、症状が現れにくいのは当然です。

正確に依存が形成されているかどうかを知るためには、体内からTHCが消失したら何が起こるかを見る必要があるでしょう。体内のTHCを洗い流すことはできないので、代わりにTHCが作用する受容体を遮断する薬を与えて、受容体からTHCを解離させる実験が、動物を用いて行われました。たとえば、マウスにTHCを繰り返し与えた後に、THCが作用するカンナビノイド受容体を遮断できる薬を投与すると、自発運動の顕著な増加や、四肢の震えなどの離脱症状が誘発されたと報告されています(Neurosci Lett 465(1): 66-70, 2009)。サルを用いた実験でも、カンナビノイド受容体遮断薬の投与によって離脱症状が生じたと報告されています(J Pharmacol Exp Ther 334(1): 347-356, 2010)。つまり、マリファナ使用を止めても離脱症状が観察されなかったからといって、「身体的依存が形成されていない」とみなすのは、間違いです。身体的依存は形成されるが、THCがなかなか消失しないので、みえてこないだけなのです。
 

薬物の依存性に対する正しい評価を

古いタイプの睡眠薬は強い依存を形成しやすかったのに対して、「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる、比較的新しいタイプの睡眠薬は、依存を形成しにくいと言われていました。ところが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が作用する受容体を遮断する「フルマゼニル」という新薬が見つかり、長期的にこの薬をしている人にフルマゼニルを使用すると、離脱症状が現れることが判明しました。つまり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は身体的依存を形成するのですが、特に作用時間の長い薬の場合、断薬しても体内に長期間残存しているで、離脱症状がみえなかっただけだったのです。最近では、「ベンゾジアゼピン系薬物は依存を形成する」と訂正されています。

マリファナの依存性に関しても、「弱い」とか「ない」と記述されることが多いようですが、この認識は、間違いであり、正すべきでしょう。タバコとの比較も含めて、他の薬物と危険性や依存性を比べることは、無意味です。

大麻に関する理解を深めたい方は、是非私の著書『大麻大全』(武蔵野大学出版会)をあわせてお読みください。
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