その人が会社に求めるものによって、天国にも地獄にもなる「ゆるブラック企業」。一度ハマったら抜け出せない?
「ゆるブラック企業」は何がゆるく、何がブラックなのか
ブラック企業とは、コンプライアンス意識が低く、長時間労働や過剰なノルマ、賃金不払いやハラスメント行為が横行するなど、特に若者を使い捨てにする組織風土が根づく企業の総称である。そのような悪行を重ねる会社が存続できること自体が社会に衝撃も与える。一方、最近話題の「ゆるブラック企業」の特徴は、「残業がない」「仕事が楽で居心地がいい」「それほど難しくない仕事」。これらが「ゆる」に含まれたニュアンスである。これだけではブラック企業といえるのか、疑問に思う人もいるだろう。このような企業が、「ゆる」とは付きつつも「ブラック企業」といわれる理由は、「給与が低い/上がらない」「仕事を通じて成長ができない」「スキルが身につかず市場価値が上がらない」からだという。
“働き方”だけ見ればホワイト企業なのに、「ブラック」認定される理由
「給与が低い/上がらない」だけならば、そもそも、年功序列色が残る多くの日本の職場では、若手社員の給料は低く設定されていることが多いので、若者世代が仕事の負担に対する報酬に納得ができないと感じる可能性は高く、多くの職場が当てはまってくるだろう。ただ、そこに並列して、「仕事を通じて成長ができない」「スキルが身につかず市場価値が上がらない」という状況があることが問題視される。本来仕事の内容に応じて値札が付いているとすれば、そしてその値札が労働に対する対価として正当であれば、それで納得できるはずだが、日本の組織風土の中では、仕事の内容と報酬が一致するのは、一定の経験を積み、ある程度年齢を重ねた世代だけになっているかもしれない。会社への貢献度は必ずしも若手社員が中高年社員と比べて低いとは限らず、給料と会社への貢献度の収支バランスを見れば、明らかに中高年社員のほうが赤字社員は多そうであるにもかかわらず、である。
ではなぜ、若手社員は低い給料を我慢できるのか。それは成長できる環境を会社が用意してくれるからではないだろうか。社会人経験がない新卒一括採用が一般的な日本社会では、若手社員は給料が低く、比較的簡単な仕事、責任の少ない仕事をしながら、時間をかけて経験を積ませてもらえる。経験と実績のある即戦力を重視したキャリア採用を中心とする外資系企業との違いである。充実した研修があり、面倒見のいい先輩社員がいるおかげで、少しずつ能力を上げて会社に貢献できるようになり、給料もなだらかに上がっていくように給与制度が設計されている。
つまり、給料が低い分、成長するためのコストを会社に負担してもらっているようなもので、経験不足で能力開発中の若手の場合、足りない報酬の部分を仕事で成長できることで納得させている人も多いのだ。
学情による2024年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象にしたアンケートによると(※)、就職活動において、「自分自身が成長できそうか」を重視すると回答した学生は8割に迫った。「成長し続けられる社会人になりたい」「自分自身が成長することで、会社や社会に貢献できると思う」「終身雇用が当たり前ではないので、成長し続けることが必要だと思う」といった声が寄せられている。また、成長できそうだと思う企業の特徴は、「相談しやすい環境がある」が最多。次いで「研修が充実している」、「仕事を通してスキルを身につける機会がある」と続く。
このような若者にとって「ゆるブラック企業」は、若手社員が成長するためのコストを会社がかけてくれていないのも同然であり、自分が思ったような成長を遂げることができないため、不満がたまりやすくなるし、スキルが身につかず市場価値も上がらないため、転職したくても難しいという状況を前に不安にかられる。このまま転職もできず、一生、この低賃金の会社で塩漬けになってしまう未来を想像するのだ。
>次ページ:もし「ゆるブラック企業」から抜け出せないと困っているなら
<参考>
※「自分の成長」をテーマにしたアンケート(学情)