作品を褒めようとはしない夫
数週間後、届いた工芸品を息子は大喜びで眺めていた。フミさんも「よくできてる」と褒めたのだが、たまたまそれを見ていた夫が「なんだそれ」とからかうような口調で言った。「息子は真っ赤な顔をしていました。バカにされたと思ったんでしょうね。しばらく黙っていましたが、小さなげんこつほどの大きさの工芸品を抱きしめて泣き出したんです。夫は『そんなものを作っても、何の役にも立たないんだよ』と言い放ちました。『男ならスポーツでもやれ』と」
そこでフミさんは初めて夫の不機嫌の正体がわかったような気がした。夫は「男ならスポーツ」というステレオタイプな考えをもっていたのだ。だから物作りに夢中になっている息子が気に入らなかったのだろう。
「息子といえども別人格ですし、男の子がスポーツをやらなければいけないわけでもない。ひとりの人間として息子を認めればいいだけのこと。もしスポーツを勧めたければ、それなりの言い方や勧め方があるはず。一緒にキャッチボールしてみるとかサッカーを見につれていくとか。選択肢を広げるのには私も賛成ですけど、夫は自分から息子を何かに誘うことはない。そう夫に言ったら、『息子が連れていってほしいと言わないから』って。頼まれればやってやってもいい、ということなんですかね」
そして妻は真顔で「夫と私はまったく合わない」
自分から子どもへの働きかけをせず、子どもがしたいことをすると揶揄するような言葉をかける。夫の気持ちがまったくわからないとフミさんは言う。「夫はもともと慎重なタイプではあるんですが、結婚後、それが慎重なだけではなくネガティブ思考なんだと気づきました。出産後に退職、その後パートで働くようになった私は職場を何度か変えているんです。待遇より環境のいいところへ行きたかった。でも夫にとっては、それも無駄というか。『パートなんだから、時給さえよければそれでいいじゃん』ということになる。でも私は人間関係がスムーズで働きやすいほうがいい。だってその場所で何時間も過ごすんですから」
話しているうちに、「夫と私って、まったく合わないと今、再確認しました」とフミさんは苦笑した。少なくとも、親の価値観で息子を傷つけるのは間違っていると夫にきちんと伝えたい。フミさんは真顔でそう言った。