息子はものづくりが大好きなのに……
「楽しい、うれしい」に水をさす夫
「8歳になる息子は、物を作るのが大好きなんです。だからいろいろな体験をさせてやりたくて」そう言うのは、フミさん(40歳)だ。ふだんは百円ショップで紙粘土や木材など、息子の欲しがるものを買い与えている。彼はさまざまなものをうまく使って棚を作ったり、下駄箱の上に動物のオブジェを作って並べたりしている。
「ちょっと旅行をしても、現地で“物作り体験”をしたがるんですよ。だからなるべくやらせようと思っています」
ガラス細工や陶芸など、旅先でできることはたくさんある。今年のゴールデンウィークも家族3人で旅行した際、現地の伝統工芸館での体験を息子が望んだ。
「1時間ほどでできるというので夫に言ったら、『待ってるのがめんどうだよ』と言い出したんです。子どもがやりたがっているんだからと言うと、『じゃあ、いいよ。オレ、先にホテルに戻ってるから』と。私はその場で工芸を見ながら息子を待っていました。作品は後日送ってくれるということでした。体験を終えた息子は小走りに私のほうに走ってきて、『むずかしいけどおもしろかった!』と満面の笑み。この顔を見るのが私は好きなんです」
「足元見やがって」「誰の金だよ」という夫
ホテルに戻ると、夫は仏頂面でテレビを見ていた。楽しかったよと言った息子には「そうか」と言ったものの、息子がトイレに行くと「あれ、いくらだったの?」と尋ねてきた。「4000円というと、『足元見やがって』と夫。プロが1対1で教えてくれながらの体験ですよ。そのくらいの値段は仕方がないし、息子があんなに楽しんだのだから、私は高いとは思わないと言ったら、『誰の金だよ』って。ムッとして『私のパート代から出してます、この旅行全部がそうです!』と言ってやりました」
だが夫も負けてはいない。いろいろなことをやらせても、それが息子のためになるとは限らないと言い出したのだ。
「私はそうは思わない。どんなに小さな体験でも彼の心はその都度、満たされている。大人になってどういう道に進もうか考えたときに、その体験が役に立つかもしれない。もし役には立たなくてもいい思い出にはなる。そう言うと夫は、『無駄金使ってるだけだと思う』って。夫は何に対しても否定的なんですよ。スタンダードはいいけどオプションは嫌う。勉強してそれなりの大学に行って、それなりの会社に入ればいい。それが彼のスタンダードだから、物作りなんていうオプションは嫌いなんですね。でも息子が、ものを作るアーティストや職人になりたいと言ったらどうするのと聞いたら、芸術大学に行くか職人に弟子入りすればいい。それは高校を出るまでに決めればいいことで、今からあれやこれや体験したって何の意味もない、と……」
数千円で、日常生活ではできない体験ができるなら息子にとっては大きなできごとだとフミさんは思うので、夫とはまったく価値観が異なる。
>ネガティブ思考で息子を傷つける夫