法律から解説!「麻薬」「大麻」の決定的な差は「施用」が認められるかどうか

【薬学部教授・麻薬研究者が解説】麻薬と大麻は似たようなものと思われがちですが、全く異なります。これまで麻薬については「麻薬及び向精神薬取締法」、大麻については「大麻取締法」で規定されてきました。それぞれの法律からわかる麻薬と大麻の違いと、大麻取締法改正によって大麻研究が医療に活かされる可能性について解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

「施用」が認められるかどうか…麻薬と大麻の決定的な差

麻薬と大麻の決定的な差とは?


多くの人が「麻薬や大麻のような違法薬物…」という言い回しを聞いても違和感を覚えず、どちらも「禁止されている薬物」くらいにしか認識されていないかもしれませんが、それは大きな間違いです。

どちらも、「脳に作用し依存性を形成するため乱用による個人の被害や社会的悪影響が懸念される」ことから、法律で規制されている点では共通しています。しかし、「大麻は麻薬か?専門家でも問いに答えるのが難しいワケ」「Q. 大麻と麻薬は別のものだと聞きました。本当でしょうか?」でも解説したように、日本では、麻薬と大麻はそれぞれ別の法律「麻薬及び向精神薬取締法」と「大麻取締法」で規制されてきました。そのため、麻薬と大麻では取り扱える範囲や条件が大きく異なっていました。とくに、医療目的での使用が認められているかどうかは、決定的な差です。わかりやすく解説します。
 

麻薬を扱う「麻薬及び向精神薬取締法」・大麻を扱う「大麻取締法」

「麻薬及び向精神薬取締法」と「大麻取締法」のどちらにも、「使用」とは違う「施用(しよう:※読みは同じになりますが漢字が違います)」という言葉が出てきます。一般に「施用」とは、「ある特定の目的のために使うこと」を意味します。実際のところは「使う」ことですし、「個人の娯楽」も目的だとにみなせば、「施用」と「使用」は同じように思えるかもしれません。しかし、「麻薬及び向精神薬取締法」には次のような定めがあります。

第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
<中略>
十八 麻薬施用者 都道府県知事の免許を受けて、疾病の治療の目的で、業務上麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方せんを交付する者をいう。


つまり、この法律中での「施用」は、主に「疾病の治療の目的」を指していることが分かります。

また、麻薬の施用について、「麻薬及び向精神薬取締法」に次のような条文があります。

第三条 麻薬輸入業者、麻薬輸出業者、麻薬製造業者、麻薬製剤業者、家庭麻薬製造業者又は麻薬元卸売業者の免許は厚生労働大臣が、麻薬卸売業者、麻薬小売業者、麻薬施用者、麻薬管理者又は麻薬研究者の免許は都道府県知事が、それぞれ麻薬業務所ごとに行う。
2 次に掲げる者でなければ、免許を受けることができない。
<中略>
七 麻薬施用者の免許については、医師、歯科医師又は獣医師


麻薬の中には、モルヒネのように、現在の医療現場でも使用されており、病気に苦しむ患者さんを救うのに欠かせない薬も含まれているので、正式に免許を得た医師、歯科医師又は獣医師が、病気の治療目的で患者さんに麻薬を処方することが認められているのです。

さらに次のような条文もあります。
 

第二十七条 麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方せんを交付してはならない。但し、左に掲げる場合は、この限りでない。
<中略>
二 麻薬施用者から施用のため麻薬の交付を受けた者が、その麻薬を施用する場合


医療目的ですから当然なのですが、医師等が記載した処方せん内容に従い、患者さんが麻薬の注射を受けたり、飲み薬を自分で飲むことが認められているのです。

一方の大麻はどうでしょうか。大麻の施用については、これまでの「大麻取締法」に次のような条文がありました。

第四条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
<中略>
二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
<以下略>


つまり、医療目的で医師等が患者に大麻を処方することも、患者が用いることも、一切認められていないのです。麻薬のように「許可を得れば認める」という条件もなかったのです。

なぜ、大麻を医療目的で使うことが認められていなかったのかは、実は正確にはわかっていません。大麻取締法が制定された当時は、大麻草が農産物であったこと、病気の治療に用いられることがほとんどなかった(※明治末期から昭和初期には、内服で鎮痛薬や催眠薬として、外服で巻煙草にして喘息薬として用いられたこともあるが、利用価値があまり認められず広く普及するには至らなかった)こと、大麻が乱用されているという実態が日本にはなかったことなどから、大麻を積極的に医療目的で使う必要性が議論されず、麻薬のような免許制度が導入されなかったものと思われます。

現在、大麻に含まれる成分が医療に役立つかもしれない可能性が議論され、大麻取締法を改正しようという動きが起きたのはこのためです。
 

大麻取締法の改正により大麻研究を医療に活かすことが可能に

2023年12月6日に大麻取締法を改正する法案が国会で可決・成立し、2024年12月12日から実際に施行されました。これにより、「大麻取締法」(昭和23年7月10日法律第124号)は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わりました。

この新しい法律内で大きく変わったのは、大麻草から抽出される成分(薬としての効果を示す化学物質)が「大麻」から除外された点です。また、これに伴い「麻薬及び向精神薬取締法」も改正され、その中で「麻薬」の定義が「別表第一に掲げる物及び大麻をいう。」と変更されました。つまり、大麻草を原料として製造された医薬品は、「麻薬及び向精神薬取締法」の対象となり、きちんと手続きをとって認可されれば、医療用に製造、販売、施用することが可能になったのです。

実際に大麻研究がどれほど医療に貢献できるかは不明ですが、「施用」への対応が法律によって異なっていた点が解消されることになったのは、好ましいことと思われます。
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