認知症

Q. 認知症になると、今朝の食事など、最近のことほど忘れてしまうのはなぜですか?

【脳科学者が解説】認知症の方は、昔の出来事は鮮明に覚えていても、ついさっき食事を済ませたことなどを忘れることがあります。記憶は時間が経つほど薄れてくるものなので、最近の出来事の方がよく覚えているはずですが、認知症の方はどうして昔の出来事の方をよく覚えているのでしょうか。わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 認知症になると、最近のことほど忘れてしまうのはなぜですか?

認知症の人の記憶力

「昔のことはよく覚えているのに、最近のことは覚えていない」 なぜそんなことが起こるのでしょうか?(※画像はイメージ)


高齢になると、昔のことは良く覚えているのに、最近の出来事の記憶がない、ということがしばしば起こります。特に、認知症の方は、食事や外出などその日にしたことも覚えていないこともあります。これはなぜなのでしょうか。

Q. 「認知症になると、昔のことは覚えているのに、最近のことほど忘れてしまうようですが、これはなぜでしょうか?」
 

A. 「忘れてしまう」のではなく、「最初から記憶されなくなる」からです

確かに認知症の方は、ついさっき食事をとったばかりなのに「食事はまだ?」と家族に催促するようなことがあります。これは記憶障害のひとつです。ただし、誤解しないでいただきたいのは、このようなとき、認知症の方は、つい最近の出来事を「忘れてしまった」のではありません。一度記憶されたことが失われたのではなく、「最初から記憶されていない」のです。

認知症の原因はさまざまですが、もっとも多いアルツハイマー病を原因として生じる「アルツハイマー型認知症」では、脳の中で主に「海馬」と呼ばれる領域が先行して障害されます。海馬は、私たちが体験した出来事に関する情報を整理して、忘れない記憶として脳内に残すための処理を行っている部位です。そのため海馬が障害されると、見たり聞いたり体験した事がすべて「左から右に抜けて」、記憶としてはまったく頭に残らない状態になります。

そのため、年を取ってからも、海馬が正常に機能していた頃に体験した出来事はちゃんと記憶されています。しかし、年を取って海馬の働きが衰えてくると、断片的な記憶しかできなくなります。認知症が進行して海馬がほとんど機能しなくなると、まったく記憶ができなくなります。その結果、昔の出来事は細やかに覚えているけれど、病気が進行してからの出来事は、ついさっきのことであっても、「まったく覚えがない」ということになってしまうのです。
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