物件価格はいくらまでなら購入可能ですか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、39歳の女性会社員の方。ご主人の転職を機に、住宅購入を考えているとのこと。ただし、希望エリアの物件価格は高騰し、希望する住宅の購入そのものに不安を感じているといいます。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。住宅購入に不安を感じます
Izooさん(仮名)
女性/会社員/39歳
東京都/賃貸住宅
■家族構成
夫(会社員/35歳)、長女(13歳)
■相談内容
今、マイホーム購入を目標に日々節約に取り組んでおります。以前まで主人の会社で家賃補助が出ていたため、貯金をもう少し頑張ってからにしよう!とマイホーム購入を先送りにしておりました。昨年主人が転職をし、家賃補助がなくなったため(代わりに年収は大幅アップすることができました)、本格的にマイホーム探しを開始しました。
しかし、現在住んでいる場所が再開発により、物件価格が上昇してしまい、マイホーム購入に躊躇しております(現在住んでいる場所は満足する物件ですと6000万円以上します)。物件価格がいくらくらいまでなら無理せず購入することが可能でしょうか?
日々節約には努めていますが、逆に大型連休には家族で旅行をするのを楽しみにしているため、帰省費用を含め年間100万円ほど旅行費用としてキープしております。この楽しみは削らずに、無理ない物件購入ができればと思っております。ぜひ、アドバイスお願いいたします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道
夫の小遣い30万円、相談者の小遣い20万円、家電等の大きな買い物10万円、残りは貯蓄(160万円)
(2)家族旅行について
趣味娯楽費に含む。「家族旅行+帰省」は子どもが一定の年齢になるまでは年100万円を予算として計上。それ以降は夫婦のみの旅行で予算60万~70万円。
(3)加入保険の保障内容
[夫]
・定期保険(保険期間70歳、死亡保障3000万円※会社の団体保険、毎年保険料がアップし70歳で5000円ほど)=毎月の保険料1850円
・定期保険(保険期間60歳、死亡保障1000万円)=毎月の保険料1900円
・収入保障保険(保険期間51歳、保障・月15万円)=毎月の保険料2500円
・終身医療保険(入院1日7000円、手術14万円、通院給付1日3000円、先進医療)=毎月の保険料3050円
[相談者]
・がん保険(終身保障、60歳払い、入院1万円、手術一時金10万~40万円、診断給付金100万円)=毎月の保険料3500円
(4)クルマの買い替えについて
7年後、予算は100万円。
(5)教育費について
塾3万円、部活・学校費1万円。高校、大学は私立の可能性はあり。
(6)住宅について
新築一戸建て(2階建て、3LDK)で6000万円~、駅から遠いなど条件を下げれば4500万円~。ローン名義は夫単独。
(7)定年と退職金
夫/再雇用制度あり。退職金(確定拠出年金)は2000万円ほど。
相談者/65歳まで勤務可能。退職金なし。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 物件価格6000万円なら無理なく購入可能
アドバイス2 減収リスクを考慮すれば上限は6500万円
アドバイス3 相談者にも1000万円程度、死亡保障は必要
アドバイス1 物件価格6000万円なら無理なく購入可能
ともあれ試算をしてみましょう。具体的な住宅購入時期は不明ですが、仮に1年後とします。現在、毎月10万円の貯蓄、ボーナスからは160万円貯蓄できることになりますから、年間で280万円。1年後、今ある金融資産と合算して手持ち資金は2080万円。
物件価格6000万円に対して、頭金は1200万円。また、諸費用は物件価格も借入額も大きいので400万円程度見ておきたいところ。結果、1600万円が自己資金となります。残り手持ち資金は480万円ですから、ここが自己資金の上限と考えた方がより安全です。
購入後ですが、4800万円の住宅ローンを金利2%(全期間固定)、返済期間は30年とすれば、毎月の返済は17万7400円。現在の家賃との差額は6万2400円。結果、他の生活費が変わらないとすれば、毎月の貯蓄は10万円から3万7600円に減ります。また、2年後には児童手当の支給が終了しますから、1年前倒しですが、毎月の貯蓄は2万7600円。ボーナスからは、固定資産税(年間で平均10万円と想定)を捻出するとしても、150万円貯蓄できますから、合計年間180万円程度は貯蓄できる計算になります。
ご主人の定年を60歳として、それまで世帯収入が変わらないなら、24年間で4320万円。さらに、退職金2000万円を加えて6320万円。実際は、お子さんの成長に合わせて、基本生活費もアップしていきますが、先取りしている旅行費用は24年間で減っていくと考えられるため、そこで相殺されるとします。
基本生活費以外のまとまった支出としては、まず教育費。現在、月4万円計上していますから、24年間で1152万円。「高校、大学ともに私立の可能性があり」なので、学校にかかるコスト(入学、授業料等)はちょうどカバーできそうです。ただ、進学塾や通学費、クラブ活動費なども考慮して1400万~1500万円は確保しておきたいところ。結果、300万円程度、別途用意が必要です。
他には、7年後にクルマの買い替え、予算は100万円とのことですから、60歳までにあと3回あるとして300万円。住宅のランニングコストとして、外装や屋根の補修、設備機器の買い替えなどで400万円。これら合算すれば、ちょうど1000万円となります。
したがって、ご主人が定年時には手元に残る資金は5300万円ほど。これが老後資金です。少なくとも65歳までご夫婦で働くと、年金支給までは貯蓄を取り崩さず生活することも可能でしょう。旅行費用は別途貯蓄から捻出するとしても、65歳の時点で手元に5000万円程度は残ります。さらに、老後の予備費として1000万円を差し引いて4000万円。これは、公的年金だけでは生活費が月5万円不足するとしても、すべて使い切るまで67年かかる金額です。老後資金は十分用意できるといえるでしょう。
アドバイス2 減収リスクを考慮すれば上限は6500万円
住宅購入の可能額ですが、試算上、物件価格6000万円は十分可能です。では、上限はといえば、私は6500万円と考えます。先の試算結果だけを見ると、1500万~2000万円を上乗せして、物件価格を7500万~8000万円としても、理屈としては購入可能です。しかし、気になるのが住宅購入後、貯蓄のほとんどをボーナスに依存するという点です。給与と比較してボーナスの支給額は企業業績により左右されます。勤務先の経営が安定していても、20年先、30年先はわかりません。ボーナスが減額となり、貯蓄ペースが落ちれば、住宅ローンそのものが大きな家計負担となる可能性が出てきます。
住宅ローンにおいて、ボーナス払いを併用すれば、その分、毎月の貯蓄額は増やせます。しかし、返済の一部をボーナスに依存することになりますから、リスクが回避されたわけではありません。
仮に6500万円の物件価格なら、頭金1200万円として借入額は5300万円。先の試算と同じ条件で住宅ローンを組むと、毎月の返済額は19万6000円。児童手当を考慮しなければ、貯蓄は月1万円。これ以上借入額を増やすと、毎月の貯蓄が難しくなります。これが6500万円とした理由のひとつです。
また、4800万円を借り入れたときより、24年間で500万円ほど貯蓄が減少します。これで、65歳の時点で手持ち資金は、老後の予備費を差し引いて、3500万円。もちろん、この額は老後資金としては十分ですが、もしも、ボーナスの貯蓄分が半減(年間75万円)してしまうと、老後資金は1700万円。それでも、お二人とも厚生年金に加入されていますし、やや不足と感じても、老後の家計管理や65歳以降も働くなどすれば、まだカバーできる範囲だと思います。
もちろん、あくまで試算は仮定の話ですし、想定している支出もきびしめにしています。それでも、旅行なども楽しみながら無理のない購入をし、仮に減収のリスクがあっても対応できるということを目指すなら、6500万円が上限ではないでしょうか。
アドバイス3 相談者にも1000万円程度、死亡保障は必要
最後に保険について。奥様に死亡保障が必要と考えます。保険期間10年、保障額は1000万円でいいでしょう。割安の定期保険なら、年払いでも保険料は1万5000円程度です。
それと、ご主人の保障ですが、団体保険と医療保険で十分。さらにいえば、住宅購入後も、貯蓄がハイペースで増えていきますから、かかる医療費は貯蓄から出すという発想なら、医療保険も不要といえます。
ともあれ、現時点で死亡保障は団体保険だけで3000万円確保されて、住宅購入後は団体信用生命保険にも加入されるでしょう。さらに、奥様も働いていることを考えれば、収入保障保険と定期保険の必要性は低いでしょう。
相談者「Izoo」さんから寄せられた感想
このたびはアドバイスありがとうございました。6000万円の物件なら無理なく、老後資金も十分確保できるとのことで、安心しました。また保険の見直しに関しても、マイホーム探しと並行して検討していきます! お金に関して心配性過ぎるところがあり、一人で思い悩んでおりましたが、少し肩の荷をおろして、これから家族仲良く頑張っていきます。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武