定年後、過去ばかりをみてしまう自分がいる
家庭を守ってきた妻に感謝しているが……
昨年、60歳で「一応定年」になったタケヒコさん(61歳)。その後は嘱託として仕事をしている。仕事内容はたいして変わらないが、自分が最終的な責任者ではなくなっており、実質的には「いてもいなくてもいい人間」に数えられていると実感しているそうだ。「異動してきた若い社員が『あの嘱託の人』と言っているのが耳に入ってきたことがあります。名前くらい覚えてほしいなと思う半面、自分が若いときもベテランを疎んじていたこともあったと思い出して苦笑するしかない感じです」
年をとって、いつかは世の中の役に立てなくなっていくのは世の流れ。会社員としてはそれでいいのだと思ってみても、気持ちはすっきりしない。
それに輪をかけるのが同い年の妻の言動だとタケヒコさんは言う。結婚して32年経つが、最近の妻は理解できないと愚痴をこぼす。
「妻はすっかり『私の役割は終わったから』という態度なんですよ。夜のほうが時給がいいからと夕方から夜、コンビニでパートをしています。週末もパートで、平日に休んで友だちと出かけたり、ときには一泊で旅行したり。3カ月ほど前、娘に子どもが産まれたんですが、1カ月ほどパートを休んで娘のところに手伝いに行ってしまいました。事前の相談はありませんでした。え、オレはどうなるのと言ったら、『あなたは大人なんだから、自分のことくらい自分でしてよね。もう定年になったんだし』って。定年になったら、家でもいらない人間なのかと落ち込みましたね。妻はカラカラと笑って『誰もそんなこと言ってないでしょ』と。『最近、被害妄想がひどいわよ』とまで言われた」
自由に楽しそうに生きている妻に嫉妬の感情もあるのかもしれない。あるいは今まで30数年、頑張ってきた自分に対しての妻の態度が許せないのだろうか。
「家庭を守り、子どもふたりを育ててくれた妻には感謝しています。僕は家庭を顧みる時間がなかったから。でも僕が感謝しているほど、妻は僕には感謝していない。そんなふうに感じてしまうんです」
感謝を強要しているわけではないけど、とタケヒコさんはうつむいた。
>楽しそうな妻が羨ましいとは口が裂けても言えない