父に強制的に勉強させられた
中学受験ブームは加熱の一途だが……
ミツルさん(43歳)はため息をついた。都内で生まれ育った彼は、小学校に入ると同時に塾に通った。友だちがスイミングだサッカーだと言っている間、彼は塾で勉強をしていたのだ。
「父は国立大学を出た公務員でしたが、本来はもっと出世できるはずなのに、周りがオレの実力を認めてくれないとひねくれていた。もっとも、当時は父は“エライ人”だと母からも刷り込まれていたので、そんな父が僕の将来を考えてくれてありがたいとさえ思っていた」
彼は姉と妹がいる長男だ。父は「オレより偉くなってほしい」が口癖だった。ところがミツルさんは、詰め込まれる勉強に向いていなかった。小学校4年生になって本格的に受験準備を始めると、自分が周りの子よりできないとすぐにわかった。
「父はただ、努力が足りない、と。それまで週末は土曜日が塾で、日曜日は一応休みだったんですが、日曜も別の塾に行くようになった。姉は僕のせいで私立中学を諦めたんです。僕よりずっといい成績だったのに、両親が『私立に行くのはミツルだけ』と言ったから。姉からも『あんたが受かってくれなかったら、私があきらめた意味がないんだからね』とプレッシャーをかけられました」
平日の夜は塾から帰ると、父が手ぐすねを引いて待っている。食事時間は15分と決められ、すぐに勉強、お風呂も15分で上がるとまた勉強。すでにやった問題をミスすると、父から鉄拳が飛んできた。
「いつもビクビクしていましたよ。僕は体もそんなに大きくなかったし体力もない。父に殴られて椅子から転げ落ちたこともありました。さすがに母が『ケガしたら受験できないでしょ』と怒ってくれたけど、怒り方がおかしいなと思った」
両親の期待に応えなければならない。褒められたい。それだけを思っていたという。
>必死で合格したが、生気を失った