6年間、娘とは姉妹のように時間を共にしてきた
娘が落ち込んでいるというのに……
「6年前に娘が拾って育ててきたワンコが、年末に亡くなったんです。もともと病気をもっていたので長生きはむずかしいと言われていたんですが、娘はそれでも飼うと言い張った。よく世話をして、姉妹のように仲が良かったから、自分の半身をもぎとられるようにつらいんだと思います」寂しそうにそう言うユウコさん(44歳)。ひとり娘は11歳になる。家の前に捨てられていたワンコを抱えて家に入れたのは、当時5歳だった娘。それから6年にわたって、娘とワンコは姉妹のように暮らしてきた。病気がちで、腫瘍が見つかったりもしたが、娘は一生懸命看病した。
「私のパート代は、ほとんどワンコの治療費に消えましたが、惜しいとは思いませんでした。それほど大事な家族だったから」
ユウコさんも娘も、年末年始は悲しくてつらくて、ふたりで泣いてばかりいた。そんなとき、夫が言ったのだ。
「たかが犬じゃないか」
この一言に娘は激怒した。あまりのショックに言葉が出ないままに、父親に殴りかかっていった。ユウコさんはあえて娘を止めなかった。悔しい気持ちがわかったからだ。
「そもそも夫はワンコを飼うことに反対でした。犬なんか飼ったら金がかかると。ましてや持病のある犬じゃ、何の楽しみもない。飼うなら、血統書つきにしろと。そのときも娘は大泣きしました。だから何があってもあなたの給料を犬関係には使わないと、私は一筆書きました。娘は今までのお小遣いを全部差し出したんです」
そんな経緯があったから、父親の冷たい一言に娘が怒るのは当然だったのだ。娘は泣きながら父親に向かっていったが、暴力はふるわなかった。代わりに、6年前とは違って言葉で抗議した。
「お父さんはワンコを飼うときもそうだった。どうせ飼うなら血統書つきにしろって言った。血統書がついてなかったら犬として劣るの? 人間もそうだと思ってるでしょ。よくどこの大学を出たからあいつはいいやつだとか言ってるよね。私が大学へ行かなかったら、私のことをダメな子だって言うんだよね」
娘がかわいいからこそ、夫は支配的だった。そんな夫に変わってほしかったユウコさんだが、「力及ばずで、娘にはかわいそうなことをしてきた」と感じていた。だからこそ、ワンコに関しては徹底的に娘の味方をしてきたのだ。
>娘と夫の力関係の逆転が起こる