夫は言葉を失った、完璧な妻の「裏の顔」
昨年、ふたりの子が同じ小学校に通っていたときのこと。タクロウさんは運動会に行くと子どもたちと約束していたのに、急に仕事が入って行かれなくなった。「でも思ったより早く仕事が片付き、慌てて学校に駆けつけました。急いでいたので妻にも連絡できないままでしたが、とにかく子どもたちの姿を見られればいいと思って。保護者席まで行くと、なにやらもめごとが起こっている。ふと見ると、輪の中心は妻でした。妻ががなり立てているんです。
『あんたが先に私を押したくせに、何被害者ぶってんのよ』『だいたい、あんたはいつも態度が悪い。新参者なんだからでしゃばるんじゃないよ。そんなことじゃ子どもがいじめられる』と、すさまじい罵倒でした。もっとすごいことも言ってたけど、怖すぎて覚えてないくらい」
タクロウさんが少しだけ近づいていくと、ミエさんは急に黙り込み、競技に集中しているように振る舞った。タクロウさんには気づいたはずなのに、振り向くことはなかった。
「人を罵倒している姿を僕が見たとわかっているのかいないのか……。僕は保護者たちを割って入る気にはならなかったので、後ろのほうで見ていました。場の雰囲気がおかしかったので、近くにいた人に何かあったんですかと聞くと、『あの人が、場所を取られたと言って大騒ぎになって』と妻を指さした。『責められていたのは最近、この近所に越してきた方なんです。いたたまれなかったんでしょう、ほら』と顔を向けたところには、うなだれて帰っていく女性の後ろ姿があった。
『彼女、また怒ってるの?』『いくらなんでも言い過ぎよね』とささやき合う声が聞こえた。いやあ、恥ずかしかったです。僕が夫ですとも言えないし」
タクロウさんの知らないところで、妻は「危険人物」扱いされていたようだ。そこまでされるのはよほどのことだろう。
「その晩、ちょっと妻と話したんですが、妻は『私はもめごとなんて起こしてないわよ』と言うんです。『みんな妬んでいるだけよ』『私は正しくない人に、ちょっと注意しただけなのに私が悪者になってしまう』とも。誰が正しくて誰が悪いのか、僕にはわかりませんが、周りと揉めずに協調性を持ったほうがいいよとは言いました。妻はおもしろくなかったのか、ぷいと立ってリビングを出て行ってしまいましたが」
それ以来、タクロウさんは学校行事にはなるべく参加するようにしている。妻に自覚がないのだから、自分が前に出ていくしかないと考えたのだ。
「家の中で我慢しているストレスを外で発散させているとしたら、それは妻にとってもなんだか気の毒な話ですから。僕にストレートに話せない何かがあるのかなと考えちゃいますね」
今ならまだ修復ができるはず。タクロウさんは妻の様子を注意深く観察している。