ふたりの間“では”問題はなかったが
一緒に住むようになって5年が経つ、ミズホさん(39歳)とケンさん(33歳)。同棲してすぐ、一度だけ、ケンさんの実家をともに訪ねたことがあるという。「そのときは友だちとして紹介してもらいました。彼は末っ子の長男で、お姉さんふたりはすでに結婚していました。彼からはプロポーズされたものの、私は結婚という枠に入る気はなかった。ふたりの関係を世間に認めてもらう必要もない。彼が自分の姓を変えられないように、私は姓を変えたくはない。ふたりとも働いているし、私は子どもを持つ気もない。だから私じゃなくて、結婚制度を受け入れる人と結婚したほうがいいと彼を説得したんです。でも彼は納得しなかった」
とにかくミズホさんと一緒に生きていきたい。だから結婚相手としてでなくていい、とりあえず親に会ってみてほしい。親が何を言うかではなく、あなたに親を見てもらえればそれでいい。ケンさんの言い方が真剣だったので、ミズホさんは友人として彼の親に会った。
「お姉さんのうちのひとりが、比較的近所に住んでいるらしく、来ていました。『ケンが女性を連れてくるなんて初めてだから……。本当にただの友だちなの?』とニヤニヤしながら聞かれましたが、私はにこりともせず『友だちです』と言いました。彼のお母さんが、『あなたのように、はっきりものを言う女性っていいわね。こういう人がケンのお嫁さんになってくれれば』と言うので、『私はどこにも嫁に行くつもりなんてないので』と答えました。はっきりものを言う女性がいいと今どき風を装いながら、結局は嫁に来てくれればと古くさいことを言う。まあ、世間のお母さんはそうなんでしょうね」
場がしらけかけたが、彼のお母さんが立ち上がって次々と料理を運んできた。息子とその「女友だち」を歓迎するつもりなのか、みるみるごちそうが卓に並んだ。
「いただきましたが、どれもこれもおいしかった。おいしいと素直にありがたく、バクバク食べました。そうしたら彼のお姉さんが、『これ、みんなケンの大好物なの。ミズホさん、レシピもらって帰ったら?』って。そういうのも嫌なんですよね、女性がパートナーのお母さんの味を習う……。そのほうが好感度高いのはわかるけど、私は自分で味つけした自分の味が食べたい(笑)」
料理や掃除がうまいからといって、いいパートナーとは言えない。むしろそれを求めてくる男性だったら、ミズホさんはさっさと別れていただろう。
>突然の出来事で揺れたミズホさんの心