「特例的な繰下げみなし増額制度」とは?
「特例的な繰下げみなし増額制度」とは、70歳以降に年金の繰り下げではなく、さかのぼっての年金受け取りを選択し請求した場合に、請求の5年前に繰り下げの申し出があったものとみなし、増額された年金の5年間分を一括して受け取ることができるようにする制度です。制度が導入された背景とは?
この「特例的な繰下げみなし増額制度」が導入された背景には、年金の請求には5年の時効があることおよび、2022年4月から年金受け取り開始年齢が75歳まで繰り下げ可能になったことが関わっています。そもそも年金の請求には5年の時効があります。本来の年金受け取り開始年齢は65歳ですので、従来のように年金繰り下げ可能年齢が70歳までであれば時効は発生せず、何も問題はなかったのです。しかし75歳まで繰り下げが可能になったことで、例えば71歳まで繰り下げて受け取るつもりでいた方が、何らかの理由で繰り下げではなく71歳で通常の受け取り請求をした場合、65歳~66歳までの年金は時効問題により消滅してしまうことになります。
このような事態を避けるため、71歳で通常の受け取り請求した場合には、5年前である66歳に繰り下げの申し出があったものとして取り扱い、65歳~66歳までの繰り下げ待機期間分を66歳以降の年金額に反映させ、増額された5年間分の年金を請求時に一括して受け取れるようにしたのです。
対象となるのは誰?
「特例的な繰下げみなし増額制度」の対象となるのは、令和5年3月31日時点で71歳未満の方もしくは、老齢年金の受給権が平成29年4月1日以降に発生した方です。なお、80歳以降に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合は、「特例的な繰下げみなし増額制度」は適用されませんのでご注意ください。
「特例的な繰下げみなし増額制度」を利用するのはどんな人?
そもそもですが、老齢年金は繰り下げすることができ、受け取り年齢は66歳~75歳(*)の間から月単位で選べます。また受け取りを遅らせた月数に応じて年金額は増額され、増額率は1カ月あたり0.7%であり、増額された年金は一生涯変わることはありません。本来であれば70歳まで待ったのですから、繰り下げ受給を選択し生涯増額された年金額を受け取る方がよいように思えますが、増額のメリットを反故にしてまで、この「特例的な繰下げみなし増額制度」を利用する人には、以下のような事情が考えられるのではないでしょうか。
・70歳以降まで繰り下げし年金の増額を考えていたが、急にまとまったお金が必要になった方
・70歳以降も繰り下げし年金の増額を考えていたが、健康不安による余命の観点から生涯受け取り総額を考えた方
(*)65歳0カ月~65歳11カ月までの間は繰り下げできません
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、2023年4月から導入される「特例的な繰下げみなし増額制度」について解説してみました。この制度の趣旨は「年金請求の時効(5年)問題を気にすることなく、70歳以降も安心して年金繰り下げを選択できる」ということですが、裏読みすると、年金受給をできるだけ遅らせたいとの政府の思惑が透けて見えます。なお、本制度を利用し過去分の年金を一括して受給することにより、過去にさかのぼって医療保険・介護保険の自己負担額や保険料、税金等に影響がでる場合があります。つまり税金や社会保険料の負担が発生する場合があるということです。注意点として覚えておいてください。