経済的なことを考えると離婚できない
多くの女性たちが、「離婚したいけどできないのは経済的理由による」と言う。離婚して別々に暮らすとなると家賃はどうするのか、財産分与したところで新居を買う余裕はない。年金だって結局は、被扶養者だった妻の取り分は決して多くはない。「今さらお金の苦労はしたくない。それが本音ですね。うちなんていつ離婚してもおかしくないくらい冷めた関係なのに」
苦笑するのは、アキコさん(58歳)だ。3人の子どもたちはすでに独立、夫婦ふたり暮らしになって1年が過ぎた。同い年の夫は、もうじき定年を迎える。
「もちろん働いてもらわないと暮らせないんですが、夫はできるだけ早くリタイアしたいみたい。今年中に旅行でもしようと言われたので、『私は友だちと行きたい』と答えたらムッとしてました。夫を嫌いなわけではないけど、旅行先でも世話を焼くのは私。夫は私をこき使える家政婦くらいにしか思ってない」
子どもたちが小さいころからそう感じていた。ひとりの人間として見ていない、と。アキコさんは子どもたちと夫、家族のためだけに生きてきたのだ。子どもたちから見返りがほしいと思ったことはない。だが、夫からはもう少し尊重されてもいいのではないかといつも感じていた。
「子どもたちが小さいころ、私は家事と育児に追われて本当に大変だった。夫は帰ってくるとご飯を食べてごろっと横になってテレビを観ている。子どもがひとり泣き出すと連鎖反応のように泣いたりぐずったりが始まって、私はパニック状態。『せめてひとり抱っこしてよ』と言ったら、『え?オレ? ダメだよ、今忙しいから』と。テレビを観ているだけじゃないと言い返したら、『テレビを観るのに忙しいの!』と逆ギレ。そのときはいつか仕返ししてやる、定年になったら離婚届を突きつけてやると思っていましたが、実際、その年齢になってみると結局、離婚したら食べていけないのは私。なんだかなあと思いますね」
熟年以降の「離婚保険」でもあればいいのにとアキコさんは笑った。宝くじが当たらないかとせっせと買ってもいるそうだ。
「夫婦の会話なんて、ほとんどありません。今は私もパートに出て、自分の小遣いくらいはなんとかなるけど、それ以上は余裕がありませんから、経済的には夫に頼るしかない。夫もそれがわかっているから、今さら離婚なんて言い出すわけはないとたかをくくっているんでしょう。子どもたちに迷惑もかけたくないし」
子どもたちに経済的な負担をかけるわけにはいかない、迷惑をかけたくない。これも熟年女性たちの共通した意見だ。実際、アキコさんの子どもたちもひとりは正社員だが、ふたりはいわゆるフリーランス。将来が不安だという。
「離婚さえすればそれですべてがうまくいくわけではないけど、離婚する選択肢さえないのが悲しいですね」
最後まで羽ばたけない人生なんでしょうね、と彼女は寂しげに言った。