子どもたちにかかるお金も落ち着いてきたので、早期退職してパートの仕事をしたいです
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、53歳の公務員の女性。ここ数年、体調不良が続いているとのことで早期退職をしたいとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。体調不良により早期退職を考えています
おばばさん
女性/公務員/53歳
持ち家(一戸建て)
■家族構成
夫(55歳)、第1子(25歳)、第2子(23歳)、第3子(19歳)
■相談内容
子育て、フルタイム勤務と30年近く頑張って生きてきました。ここ数年体調不良が続いております。朝4時に起床し、夕方7時近くまで勤務の日々です。勤務中もずっと働きどおしで、休む暇もありません。本当に疲れました。
子どもたちにかかるお金も落ち着いてきたので、早期退職して、パートの仕事をしたいと思っています。退職金は2000万円程度の予定です。老齢年金はひと月17万円程度です。早期退職しても老後は大丈夫でしょうか?
家族は理解してくれており、早く退職するようにと言ってくれますが、働かないことへの罪悪感がありまして、退職に踏み切れません。ご教示お願いいたします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道
保険の年払い18万円(建更)、家電・日用品などの大きな買い物や予備費として50万円、旅行・レジャー費50万円、残りはすべて貯蓄です。
(2)貯蓄について
毎月の貯蓄は、iDeCo1万2000円、財形貯蓄10万円、普通預金5万8000円。
(3)住居費について
毎月の住居費の1万円は、土地・建物の固定資産税の月割です。
(4)車両費について
毎月5万8000円の車両費の内訳は、ガソリン代と高速代です。長距離通勤しているので、ガソリン代金などが高額となります。所有台数は3台です。3年後くらいに買い替えを考えております。
(5)趣味娯楽費について
毎月8万5000円の趣味娯楽費の内訳は、主に、外食費2万円、カラオケや旅行などに3万円、衣料費2万円、お稽古代1万5000円です。
(6)教育費について
毎月5万円の教育費は、子ども関係支出費となります。お小遣いや帰省費用補助です。学費は、学資保険からの支払いとなるため支出はありません。
(7)加入保険について
夫/
・共済保険(60歳まで払込、死亡保障1000万円、医療特約付き)=毎月の保険料6000円
・個人年金保険(60歳で10年確定、年金額40万円)=毎月の保険料5000円
相談者/
・共済(病気死亡500万円、入院1万円、がん特約、通院特約付き)=毎月の保険料4000円
・個人年金保険(60歳で10年確定、年金額30万円など)=毎月の保険料1万円
(8)働き方について
夫の定年は65歳です。しかし、夫も55歳くらいでの早期退職を希望しております。退職金は2000万円程度かと思います。私の退職金は2000万円程度。
(9)公的年金について
夫の公的年金見込額は年額で210万円。相談者は月額17万円程度。
(10)子どもについて
子ども1人は同居しており、大学まで通学しております。他の子2人はアパートに住んでおり、大学と大学院に通っております。同居の子どもは、4月から就職が決まりまして、自宅から通勤予定です。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 条件付きだが、夫婦2人とも早期退職しても大丈夫
アドバイス2 子どもが自立したら、生活費を削減して支出を抑える
アドバイス3 公的年金の不足分は貯蓄から。金銭的に問題なし
アドバイス1 条件付きだが、夫婦2人とも早期退職しても大丈夫
子ども3人を育てあげ、もう少しでお子さんたちは自立する年齢です。ご家族も理解されているようですし、罪悪感を持つことなく、すぐに退職していいと思います。ご主人も早期退職を希望されているようですが、それでも大丈夫でしょう。ただし、1つ条件があります。それは早期退職して、1年ほどは休養してほしいのですが、心身のリフレッシュができたら、パート・アルバイト的な働き方で構いませんので、ご夫婦で年収200万円ほどは得ていただきたいということです。金銭的なこともありますが、老け込むには早すぎます。自由にできるお金を得ることは、精神衛生上、必要なことですし、社会との接点を維持することも大切なことです。
仮に、2人ともすぐに早期退職すると、現在の金融資産1800万円に退職金4000万円を加えて5800万円となります。65歳になり公的年金の受給が始まるときに、どれだけ残せているかと考えてみてはいかがでしょうか。
1年休養すると、およそ年間の生活費500万円は貯蓄から出ていきます。失業給付がありますので、実際は、ある程度の生活費はカバーできるでしょう。その他大きな出費としては、車の買い換えがあります。生涯で2、3回として700万円ほどは見込んでおきましょう。現在は車3台所有されていますが、ゆくゆくは2台、1台と減らすことも考えておいてください。生活費と車の買い換え費用で1200万円ですから、残り4600万円となります。
1年後から夫婦で200万円ほどの収入があれば、65歳時点で3000万円以上は残せる計算になります。
アドバイス2 子どもが自立したら、生活費を削減して支出を抑える
仕事を辞めたら交通費は抑えることができるでしょうし、1年後、2年後には子ども関係費も減らせているでしょう。毎月の支出を35万円ほどに削減できれば、年間支出は420万円となり、収入の不足分は220万円です。ご主人が65歳になるまでの9年間で1980万円、約2000万円は貯蓄から取り崩しすることになりますが、それでも2600万円残せることになります。さらに、個人年金が2本で700万円あります。合わせて3300万円ですから、夫婦2人の老後資金としては、安心していいのではないでしょうか。
もちろん、この間の支出をもう少し抑えられ、収入をもう少し得られるようなら、貯蓄の取り崩しはもっと少なくて済みます。また、ご主人の早期退職を1年遅らせることができれば、それも余裕となります。
こうしたことを早期退職する前に、ご夫婦で話し合っておかれるといいでしょう。
アドバイス3 公的年金の不足分は貯蓄から。金銭的に問題なし
ご主人が先に公的年金の受給が始まりますが、便宜上、ご相談者が65歳になったときで、試算しています。現在の見込み額から推し量れば、公的年金の手取りは340万円ほどだと思われます。年間支出が420万円のままだとすると、年間で不足するのは90万円。老後資金として残せた3300万円を使い果たすのは36年後。ご相談者は101歳。生涯、金銭的に困ることはないと言っていいでしょう。繰り返しになりますが、早期退職がいつのタイミングになるかにもよりますが、65歳までは、世帯年収200万円はキープするようにしてください。それができれば、問題ありませんから。
最後に、保険について。現状のままでも問題ありませんが、もしも割り切れるなら、ご相談者の共済は1口2000円でも十分です。金融資産が十分にあるので、保険に頼らなくても問題ないからです。
また、個人年金保険については、退職するようなら、その時点で残りの期間分の保険料を前納してもいいでしょう。保険会社に相談なさってみてください。一時的に貯蓄が減ることになりますが、退職後は毎月のお金の流れをできるだけシンプルにすることが大切です。
これまで、自分の時間がない生活だったことでしょう。ご家族の理解も得られているのですから、これからは自分のために充実した時間をお過ごしくださいね。大丈夫ですよ。
相談者「おばば」さんから寄せられた感想
わかりやすく、丁寧にご教示いただきありがとうございました。具体的な金額やシミュレーションを的確に提案していただき不安が解消されました。特に、退職後における社会との繋がりを大切にしてくださいとのご指摘について、その通りだと納得いたしました。
先生のアドバイスにより、退職に対する罪悪感が和らぎました。生活費の見直しをしながら、老後の生活が安心して過ごせるようにしたいと思います。本当にありがとうございました。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子