丸暗記が大得意! 大人以上の記憶力を持つ子は「天才」なのか
記憶力がすごい子どもは天才?
大人も顔負けの記憶力を持つ子どもがいます。少し前のテレビ番組で、まだほとんど会話もできないのに、全世界の国旗と国名を暗記しているという2歳くらいの男の子が紹介されていました。ボードに記されたたくさんの国旗をランダムに指さすと、その子はスラスラと国名を言っていました。番組ではその子を「大人顔負けの天才」と評して紹介していました。
しかし、暗記力が優れた幼い子を「天才」というのは、脳科学的に見て違和感があります。分かりやすく解説しましょう。
「〇〇博士」は天才ではない? 丸暗記が得意な子どもの脳
実は脳科学的に見れば、丸暗記が得意な子は、残念ながら天才でもなければ、大人より優れた脳を持っているわけでもありません。実は子どもは誰でも、丸暗記が得意なのです。その特性を生かして、子どもはあれもこれも次々と丸暗記していきます。多くの子どもは興味の対象がたくさんあることが多いため、一つの事柄だけをすべて覚えつくすことはあまりありません。しかし特定のことに強い興味を持つ子どもの場合は、その特性が特定の分野に強く発揮されます。何かの分野への興味が強く、他に興味が移らずに固執した場合、集中的にその分野のものを丸暗記してしまいます。保育園や小学校では「昆虫博士」「電車博士」など、「〇〇博士」と言われるような、特定のジャンルについての知識を丸暗記しているお子さんがよく見られますが、同じ理由です。
記憶の種類と脳の発達を知ればわかる、子どもの脳の特性
記憶にはいろいろな種類があります。言葉に表せる記憶は「陳述記憶」に分類され、陳述記憶は、自分が体験した出来事などの「思い出」に相当する「エピソード記憶」と、自分には直接関係なくても暗記しておくことで役立つような「知識」に相当する「意味記憶」があります。詳しくは「エピソード記憶と意味記憶の違い・具体例…効率的な暗記に役立つ方法も」をご覧ください。このうち、エピソード記憶の形成には、脳の中の「海馬」という領域が関係しています。海馬のはたらきについては、「脳の海馬の働き・機能…記憶や空間認知力に深く関係」で詳しく解説しています。海馬が含まれる大脳辺縁系は、子どもがこの世に生まれた時点で、まだ完成しておらず、幼児期に徐々に形成されていきます。大脳辺縁系の中でも、海馬は出来上がるのが遅い方です。したがって、3歳くらいまでの幼児は、海馬を必要とする「エピソード記憶」ができず、海馬よりもできあがるのが早い「海馬傍回(かいばぼうかい)」を使った「意味記憶」が中心となります。ですから、大人なら「自分に関係ないことだから覚えても無駄」と考えるような内容でも、幼児は意味を理解しようとせず、手当たり次第に、とにかく丸暗記することができるのです。
これは子どもが様々な知識や技能を修得する上で、もっとも効率がよい学習方法に違いありません。例えば、会話を身につける過程で、子どもはまず周囲の人が発する言葉を丸暗記することから始めます。その証拠に、お母さんと同じ口調でお父さんを叱ったり、めったに使われないようなことわざを突然言ったりします。そして、年齢とともに試行錯誤を繰り返しながら、言葉の本当の意味や正しい使い方を理解していくのです。
子どもには子どもの、大人には大人なりの記憶のしかたがあるということです。