“時間つぶし”のような覇気のない日常
死ぬまでの“時間つぶし”として生きていればいい。そんな覇気のない生活をしていた40歳のとき、その当時のアルバイト先でジュンジさんと出会った。彼はバツイチ、いつも楽しそうに仕事をしていた。ジュンジさんはなぜかヒロコさんのことを気にかけてくれた。とはいえ、恋愛感情はお互いに持っていなかった。「その後、彼は起業して私をアルバイトとして雇ってくれました。やっと仕事のおもしろさを再び味わうことができた。彼にはすごく感謝しています」
それでもずっと仕事仲間の域を出なかった関係だったが、1年前、彼の父親が亡くなったとき急速に接近した。
「彼のお父さんも突然だった。その日、彼は珍しくお父さんとランチをしたそうなんです。そして帰宅途中、お父さんは突然倒れたそうです。報せを受けて病院に駆けつけたときにはもう息をしていなかった、と。急に家族が亡くなる悲しみや戸惑いはよくわかるので、私は彼が望むなら寄り添っていようと思っていました」
葬儀が終わり、四十九日が終わったころ、ヒロコさんは彼からいきなりプロポーズされた。人間関係は育んできたが、恋愛や結婚となるとまた別かもしれないから、よく考えてからのほうがいいと彼女は自ら言った。だが彼は「あなたなら間違いない。どうして今まで気づかなかったんだろう」と言ったそうだ。
「試しに1カ月ほど一緒に住んでみました。生活観も大きな違いはなかったし、これなら同居していけるかな、と。私も生活に余裕がなかったから、経済的に楽になるという思いは最初、正直言ってありました。でも結婚を決めたのは、経済的なことではなく、彼の人間性でした。彼と一緒にいる時間がかけがえのないものだと感じるようになって」
50代で結婚して、いきなりどちらかが病気になったら介護できるのかという不安もあった。だが今は、思い切って結婚に踏み切ってよかったと思っている。
「一緒に年をとる人がいる。昨日のこと、1カ月前のことを一緒に思い出して笑える人がいる。これは人生においてとても豊かなこと。ずっとひとりで生きてきたから、私にはとても新鮮だし、彼と話せば話すほど日々が豊かになっていく気がします」
アラフォーのころ、生活が苦しいから結婚したいと思い、婚活したこともあった。だがどうしても心許せる相手には出会えなかった。経済的な不安を解消できるという点だけでは、彼女は結婚に踏み切れなかったのだ。
「待ってよかった。今はそう思います」
親と暮らした自宅を売却、彼とともに新居へ引っ越すなど50代で訪れた人生の劇的変化。起業した彼の仕事も、業績は悪くない。ただ、彼女は現在、彼の仕事は手伝っていない。他の従業員への配慮だという。
「私は彼の友人の会社でアルバイトをしています。自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎたいから。ひとりで生きていたときと同じように、やはり質素に暮らしていますが、彼がいてくれるだけで日常生活の風景が変わりました」
50代で人生を変える。勇気はいるだろうが、一歩踏み出してみるのも悪くないのかもしれない。まだまだ後半生はこれからだ。