私は「頭も顔も性格も悪い」と思っていた
兄は大学に行ったが、3歳違いのユカリさんは高卒で就職するのが既定路線となっていた。大学を受けさせてもらえるかもしれないと勉強して、学年で1番になったこともある。こっそり受けた模試でも偏差値が高かった。「大学に行きたいと言ったこともあります。母は『はあ? 妹がいるのに何を言ってるの』って。5歳離れた妹は、中学から私立でした。あんたは働くのよと言われて、就職先を決めました。『頭も顔も性格も悪い』と親には言われていたので、自分でもそうだと思っていたんでしょうね」
ただ、心の底に反発する気持ちも残っていた。だから就職すると同時に、こっそり家を出てアパートを借りた。
「母親が勤務先にやってきて、未成年の子どもにひとり暮らしをさせるなんて、どういうことなんだと騒ぎ立てました。私、そのときにはすでに上司に『うちの親はヤバいです』と言ってあったんです。それを信じてもらうためにも、必死に働いたし、誰からも好かれるように頑張った。上司たちは親をなだめてくれました。母が帰ったあと、上司に呼ばれて『あなたが頑張っているのはわかっている。親から逃げたいと思っているなら協力する』と言ってもらえたんです。その言葉を聞いて、私、急に涙が止まらなくなりました。生まれて初めて出会った“味方”のような気がして。社会に出てよかったと思えた」
会社の支援もあって、彼女は専門学校に通ってスキルを磨いた。以来、勤続16年になる。何があってもこの会社のために頑張ろうと決めているそうだ。
「とはいえ、私生活ではいろいろ失敗しました。やっぱり呼んでしまうんでしょうか、20歳のときに付き合った男には毎日、体に痣が残るほど殴られた。逃げましたが、数年後に付き合った男性も、最初は優しかったのに1年くらい経つと暴力をふるうようになった。でもそのとき私、やっぱりホッとしたんですよね。ああ、殴ってくるくらい愛しているんだなと思っちゃって。そういう考え方がおかしいと言ってくれたのは会社の先輩でした」
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