映画

「無理に分かろうとしなくていい」災害で妻子を亡くした漁師に向き合う女性、三浦透子が演じて思うこと(2ページ目)

映画『とべない風船』に出演している三浦透子さんにインタビュー。第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』で素晴らしい芝居を見せてくれた三浦さんは、本作でも役の芯を捉えた演技で人々を魅了しています。

斎藤 香

執筆者:斎藤 香

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凛子は、とても難しい役でした

――『とべない風船』は、登場人物の心理を丁寧に描写していく作品なので、演じる俳優さんたちは難しいのではないかと思ったのですが、この島で出会う憲二との関係も含めて、どういう考えで撮影に臨みましたか?
 

三浦:憲二は、災害で妻子を亡くして、ずっと心を閉ざしている男性です。凛子は彼の事情を理解しつつも、悲しみの深さまでは分かりません。当事者じゃないのに「分かります、その気持ち」って言ってしまうことは無責任だと思いますし、「分からない」というスタンスで距離を置いて対峙するからこそ、言えることもあるのではないかと思いました。
 
家族でも友達でも恋人でもない。出会ってからそれほど月日も経っていない関係だからこそ、漏れてしまう本音もあると感じましたし、無理に分かろうとしなくてもいいんじゃないかと思いました。
三浦透子

「凜子役は難しかった」と語る三浦さん。

――お父さんとの関係もお互いに少しずつ歩み寄っていく感じが良かったです。すごくリアルな父と娘の姿を垣間見た気がしました。
 
三浦
:この映画の父と娘は、お互いに照れくささもあって、素直になれないんですよね。寡黙なお父さんなので、何を考えているのか分からないから、凛子はモヤモヤしている。
 
でも、そんなお父さんを受け入れられるようになる凛子の成長、その小さな変化を見せていく作品でもあると思います。
 
――小さな変化の積み重ねを見せていくのは、難しそうですね。
 
三浦
:撮影はストーリーの流れ通りに行われるわけではなく、シーンの撮影順が前後したりします。
 
ドラマチックな出来事が起こる作品だと、例えシーンが前後しても、大きな出来事をポイントにして、お芝居を組み立てやすいのですが、この映画は登場人物たちの心がじわじわと変化していく作品だったので、その変化を頭で整理するのが難しかったです。「今、どういう気持ちで演じるべきなのか」と、凛子の心とずっと向き合いながら演じていました。
「とべない風船」

(C)buzzCrow Inc.

――憲二役の東出昌大さんと父役の小林薫さんとの共演はいかがでしたか?
 
三浦
:東出さんとの共演は初めてでした。主演なので出番も多いですし、妻子を亡くした男性の役なので、心身ともに撮影は大変だったと思います。それでも周りに気を使い、声をかけてくださって、とても助かりました。頼りになる存在でした。
 
小林薫さんは、私が緊張せずにいられるような空気を作ってくださる方でした。だから、大先輩の小林さんと一緒にいても、リラックスしてお芝居に臨むことができたんだと思います。

>次ページ:「なんでだろう? 実はこの質問、よくされるんですよね(笑)」
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