映画

「無理に分かろうとしなくていい」災害で妻子を亡くした漁師に向き合う女性、三浦透子が演じて思うこと

映画『とべない風船』に出演している三浦透子さんにインタビュー。第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』で素晴らしい芝居を見せてくれた三浦さんは、本作でも役の芯を捉えた演技で人々を魅了しています。

斎藤 香

執筆者:斎藤 香

映画ガイド

『とべない風船』に出演、三浦透子さんにインタビュー!

三浦透子

『とべない風船』の凛子役・三浦透子さん

映画『とべない風船』は、瀬戸内海のある島を舞台に、豪雨災害で妻子を失った漁師の憲二(東出昌大)の再生への物語。三浦透子さんは、教師の職を離れ、父(小林薫)が暮らすこの島にやってきた女性・凛子を演じています。

教師の仕事に疲れ、派遣の仕事も契約が終わり、心身ともに休もうと父のもとにやってきた凛子。でも彼女は、母(原日出子)がこの地で亡くなったことが心に引っかかっていました。医療体制が万全でない島に来たから母は亡くなったのではないかと。しかし、島の人々との交流が、凛子の疲れた心を癒していきます。
 
父と娘の関係や、憲二や島の人々との交流をロケ地である瀬戸内海の美しい映像とともに映し出していく本作。まずは、三浦さんが演じる「凛子」についてお話を聞きました。
 

『ドライブ・マイ・カー』や広島ガスのCMも……広島にはとても縁があるんです

「とべない風船」

(C)buzzCrow Inc.

――瀬戸内海の美しさと共に、そこで暮らす人々の思いが綴られた作品でした。最初に出演依頼のお話が来た時のことについて教えてください。
 
三浦透子さん(以下、三浦):宮川博至監督が広島県出身で、スタッフも広島の方が多く、美しい場所で広島の皆さんと撮影ができることにとても心惹かれました。
 
映画『ドライブ・マイ・カー』も広島で撮影した作品でしたし、子どもの頃、広島ガスのCMに出演していたこともあり、私にとって「広島は縁を感じる場所」なんです。
 
実際に撮影をしていて、すごく土地の力を感じました。例えば車に乗って外を眺めているだけのシーンが結構あるのですが、セリフがなくても印象に強く残る。それはやはりロケ地の力であり、ここで撮影していたからこそ生まれたシーンが、この映画にはたくさんあります。
 
――凛子という役について教えてください。凛子をどう解釈して芝居に臨みましたか?
 
三浦:凛子は貫きたいものをちゃんと持っている女性だと思いました。でも素直に自分の気持ちを人に伝えるのは苦手。そういう人だからこそ、教師の仕事で壁にぶつかり疲れてしまったのかなと。父親との関係がギクシャクしているのも、彼女のそういう性格が関係していると思いました。
「とべない風船」

(C)buzzCrow Inc. 

――なるほど。でも凛子は父の暮らす島にやってきましたよね。
 
三浦
:瀬戸内海の島は彼女の故郷ではなく、両親が移り住んだ場所なのですが、彼女は母親がこの地で亡くなったのは、医療体制が充分に整っていなかったことも原因のひとつではないかと感じていた、だからこの地と距離を置いていたんだと思います。

ですが、母が最後に過ごした土地を知らないままでは嫌だという思いと、父親とちゃんと向き合おうという思いで、この地にやってきたのではないかと考えました。

>次ページ:「深い関係じゃないからこそ言えることもある」憲二(東出昌大)との関係で思うこと
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