悪いのはすべて母なのに
「ところがそれからは毎日のように母から電話がかかってくる。義姉の悪口ですよ。聞いていると母がすべて悪い。『そんなこと言ったらお義姉さんが気を悪くするのは当たり前でしょ』と私が客観的な意見を言うと、母がいきなり泣き出す。それが嫌で、兄になんとかしてくれと言ったら『おまえはひとりで気楽だろうけど、こっちはそうはいかないんだ』と怒りだして。家賃も払ってないくせにと言い返しましたけど」もう家族に翻弄されるのは嫌だ。ヨウコさんは誰とも接触しないようにした。母からの電話には出なかったし、兄が「金を貸してほしい」と言ってきたときも無視した。
「私は私でひとりで生きていこうと、3年前に小さな中古マンションを買いました。定年後も賃貸マンションだと経済的につらいですから。母にも兄にも住所は知らせませんでした」
半年ほど前、会社を出ると母が待っていた。どうしたのと言うと、「家出した」という。兄夫婦とケンカをし、もう家にはいられないと路上で泣き出したのだ。
「『あんたの家に連れていって』と言われたけど、私はもう本当に母に人生の邪魔をされたくなかった。だから会社近くのホテルをとってそこに泊まらせたんです。兄に連絡して、翌日迎えに行かせましたが、そのとき電話で兄が『おまえは冷たい。ホテルに泊まらせるなんて信じられない』と。それで私、ブチ切れたんですよ。あんたが親からどのくらいお金をかけてもらって大事にされてきたか覚えているか、と。私は必死に勉強して国立大に入って、授業料だって自分で出しました。兄は高い私立大へ行って、働き出しても一度も実家にお金を入れたことなんかないじゃないか、と」
兄はヨウコさんのあまりの剣幕に驚いて、電話を切ってしまったという。それから母と兄一家がどうやって過ごしているのか、ヨウコさんは知らない。母から電話が何回か来たが、ヨウコさんはコールバックしていない。甥と姪がいるものの、親しくないので情報は入ってこないという。
「やっぱり冷たいんですかね、私。友人の中にも『なんだかんだ言っても家族なんだから、お母さんには連絡してあげたら?』と言う人もいれば、似たような環境の友人は、『縁を切って大正解よ』と言うし。まあ、何が正解かはわかりませんが、私はしばらくひとりで静かに暮らしたい。この年になるまで母親に翻弄されてきて、心穏やかに生活したことなんてないんですから」
それでも心のどこかでは心配しているのだろう。ヨウコさんはどこか歯切れが悪い。親子関係にはそれなりの歴史があるので、他人がとやかくは言えない。ヨウコさん自身が悔いのないよう行動するしかないのだ。