大麻には麻薬成分が入っている?マリファナに含まれるTHCとは

【薬剤師、麻薬研究者が解説】「大麻には麻薬成分が入っている」と言えるでしょうか? これもまた難題で、解釈の仕方によって正解が異なります。植物としての「大麻草」にはTHCAが含まれ、薬物としての大麻、いわゆる「マリファナ」にはTHC(テトラヒドロカンナビノール)が入っています。報道でもあいまいに使われてしまうことが多い「大麻」や「麻薬」という言葉の正しい意味を、理解することが大切です。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

「大麻には麻薬成分が入っている」は正しいか?

大麻と麻薬成分

「大麻には麻薬成分が入っている」と言われることがありますが、これは本当でしょうか?


大麻は麻薬か?専門家でも問いに答えるのが難しいワケ」では、「大麻」と「麻薬」という言葉が何を意味するかを詳しく解説しました。その起源や薬理作用から考えると「大麻」と「麻薬」は明らかに別物ですが、法律上は複雑で、過去に大麻(マリファナ)が麻薬リストに含められていた時期があったけれど、現在は大麻が麻薬リストに含まれていないこと、さらに大麻取締法が今後改正されると大麻は再び麻薬の一種として扱われるようになるということを解説しました。

それとは別に、「大麻には麻薬成分が入っている」と説明されることがあります。これもまた難題ですが、実はこれは解釈の仕方によっては、誤りでもあり正しくもあるのです。

大麻が神社で800円?違法なマリファナだけではない「大麻」の意味」で解説したように、「大麻」という言葉には、
  • 神事に関わる道具としての「大麻」
  • 植物としての「大麻」
  • 薬物としての「大麻」
の大きく3つの異なる意味があります。神事の道具については、まったく薬物との関わりはありませんので、残り2つの場合を考えてみましょう。
 

「大麻」を植物としての「大麻草」とみなした場合

まず、「大麻」を植物の「大麻草」とするならば、大麻草に含まれるのはTHCA(テトラヒドロカンナビノール酸)などのカルボン酸体です。詳しくは「大麻成分THCは大麻草には存在しない?カンナビノイドとは」をご参照ください。

THCAには、精神作用を示すような活性がほとんどなく、薬理作用からみた狭義の麻薬(アヘンやモルヒネなど麻酔作用や催眠作用をもつ薬物群)には当てはまらないし、法律上も麻薬には指定されていません。「危険な薬」というイメージがあてはまるようなものでもありません。よって、「大麻草には麻薬成分が入っている」というのは、正しくありません。
 

「大麻」を薬物としての大麻(マリファナ)とみなした場合

「大麻」という言葉を、大麻草の葉や花穂から作られる「マリファナ」とするならば、マリファナにはTHC(テトラヒドロカンナビノール)が入っています。

上述のとおり、新鮮な大麻草にはTHCAが含まれていますが、そのままでは精神作用はほとんどありません。ところが、大麻草から葉や花穂を採取した後、乾燥・貯蔵・加工しているうちに、光、熱、空気(酸素)によって化学変化が起こり、THCAの脱炭酸化により、精神作用の強いTHCができるのです。つまり、THCは、大麻草に人間が手を加えることによって作り出した薬物と言えます。

THCには脳神経の働きを抑制する作用があるものの、アヘンやモルヒネなどとは作用機序が異なるので、薬理作用からみた「麻薬」(しびれ薬)とは違います。しかし、THCは、法律上の「麻薬」に分類されています。

現在施行されている、麻薬を規制する「麻薬及び向精神薬取締法」には

(用語の定義)
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 麻薬 別表第一に掲げる物をいう。

と書かれており、その別表第一を見ると、76種の薬物が指定されています。その中に、THCは含まれていませんが、この法律を補完する「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」の中に、こう書かれています

内閣は、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)別表第一第七十五号及び別表第三第十一号の規定に基づき、この政令を制定する。
(麻薬)
第一条 麻薬及び向精神薬取締法(以下「法」という。)別表第一第七十五号の規定に基づき、次に掲げる物を麻薬に指定する。


そして、その60~65および104番目に、THCおよび関連する薬物が記載されています。つまり、THCという化合物そのものは、「麻薬」に指定されているのです。(ネット上に散見される情報では、THCを「向精神薬」と紹介している場合がありますが、それは誤りです。)

「大麻(マリファナ)には、法律上麻薬に指定されているTHCという成分が入っている」というのは、正しいのです。

なお、2023年12月6日に、現在の大麻取締法を改正する法案が国会(参議院本会議)で可決・成立しました。これにより、近いうちに大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わります。これにあわせて、「麻薬及び向精神薬取締法」も一部改正され、「麻薬」が「別表第一に掲げる物及び大麻」に変更されるとともに、同法の別表第一の麻薬リストの中にTHCが加えられることになりました。新しい法律が施行された後は、「法律上の大麻は麻薬である」が正しくなることを申し添えておきます。
 

「大麻」や「麻薬」という言葉の真意を理解しながら使い分ける必要がある

私は他の記事でも何度も申し上げていますが、大麻の是非をめぐる議論に混乱をもたらしている一つの要因は、用語の使い方であると考えています。

そもそも「大麻には麻薬成分が入っている」という表現は、新聞やテレビニュースでよく使われていますが、はっきり言って、正確に意味が伝わりません。本当は「大麻は悪いもの」と言いたいのだが、それだと批判を浴びることがあるかもしれないので、「麻薬」という言葉のイメージの助けを借りてごまかしているようにしか思えません。

今後、報道関係者には、自分たちがどういう意味で、「大麻」、「麻薬」という言葉を使っているのかを意識し、誤解を招かないような、正確な言い方を心がけでほしいと切に願います。
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