「大麻には麻薬成分が入っている」は正しいか?
「大麻には麻薬成分が入っている」と言われることがありますが、これは本当でしょうか?
「大麻は麻薬か?専門家でも問いに答えるのが難しいワケ」では、「大麻」と「麻薬」という言葉が何を意味するかを詳しく解説しました。その起源や薬理作用から考えると「大麻」と「麻薬」は明らかに別物ですが、法律上は複雑で、過去に大麻(マリファナ)が麻薬リストに含められていた時期があったけれど、つい最近までは大麻が麻薬リストから除外されていたこと、さらに2024年12月に大麻取締法が改正・施行されて大麻は再び麻薬の一種として扱われるようになったということを解説しました。
それとは別に、「大麻には麻薬成分が入っている」と説明されることがあります。これもまた難題ですが、実はこれは解釈の仕方によっては、誤りでもあり正しくもあるのです。
「大麻が神社で800円?違法なマリファナだけではない「大麻」の意味」で解説したように、「大麻」という言葉には、
- 神事に関わる道具としての「大麻」
- 植物としての「大麻」
- 薬物としての「大麻」
「大麻」を植物としての「大麻草」とみなした場合
まず、「大麻」を植物の「大麻草」とするならば、大麻草に含まれるのはTHCA(テトラヒドロカンナビノール酸)などのカルボン酸体です。詳しくは「大麻成分THCは大麻草には存在しない?カンナビノイドとは」をご参照ください。THCAには、精神作用を示すような活性がほとんどなく、薬理作用からみた狭義の麻薬(アヘンやモルヒネなど麻酔作用や催眠作用をもつ薬物群)には当てはまらないし、法律上も麻薬には指定されていません。「危険な薬」というイメージがあてはまるようなものでもありません。よって、「大麻草には麻薬成分が入っている」というのは、正しくありません。
「大麻」を薬物としての大麻(マリファナ)とみなした場合
「大麻」という言葉を、大麻草の葉や花穂から作られる「マリファナ」とするならば、マリファナにはTHC(テトラヒドロカンナビノール)が入っています。上述のとおり、新鮮な大麻草にはTHCAが含まれていますが、そのままでは精神作用はほとんどありません。ところが、大麻草から葉や花穂を採取した後、乾燥・貯蔵・加工しているうちに、光、熱、空気(酸素)によって化学変化が起こり、THCAの脱炭酸化により、精神作用の強いTHCができるのです。つまり、THCは、大麻草に人間が手を加えることによって作り出した薬物と言えます。
THCには脳神経の働きを抑制する作用があるものの、アヘンやモルヒネなどとは作用機序が異なるので、薬理作用からみた「麻薬」(しびれ薬)とは違います。しかし、THCは、「麻薬及び向精神薬取締法」における「麻薬」に分類されています。ネット上に散見される情報では、THCを「向精神薬」と紹介している場合がありますが、それは誤りです。
なお、2024年12月12日にこれまでの大麻取締法を改正する法律が施行され、「大麻取締法」は「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わるとともに、「麻薬及び向精神薬取締法」も一部改正され、「麻薬」の定義が「別表第一に掲げる物及び大麻」と変更されました。そして、同法の別表第一の麻薬リストの中にTHCが加えられることになりました。
非常に細かいですが、従前の「麻薬及び向精神薬取締法」では、麻薬を「別表第一に掲げる物」と定義していましたが、その別表第一の中にTHCは含まれておらず、この法律を補完する「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」の中で、麻薬の一種としてTHCが記載され、運用されていました。これでは分かりにくいということで、このたび新しい法律に改正するにあたって麻薬リストが整理され、THCは「麻薬及び向精神薬取締法」の中の別表第一の麻薬リストに移動して記載されることとなったのです。
ですから、「大麻(マリファナ)には、法律上麻薬に指定されているTHCという成分が入っている」というのは、正しいのです。
「大麻」や「麻薬」という言葉の真意を理解しながら使い分ける必要がある
私は他の記事でも何度も申し上げていますが、大麻の是非をめぐる議論に混乱をもたらしている一つの要因は、用語の使い方であると考えています。そもそも「大麻には麻薬成分が入っている」という表現は、新聞やテレビニュースでよく使われていますが、はっきり言って、正確に意味が伝わりません。本当は「大麻は悪いもの」と言いたいのだが、それだと批判を浴びることがあるかもしれないので、「麻薬」という言葉のイメージの助けを借りてごまかしているようにしか思えません。
今後、報道関係者には、自分たちがどういう意味で、「大麻」、「麻薬」という言葉を使っているのかを意識し、誤解を招かないような、正確な言い方を心がけでほしいと切に願います。